失われた時を求めて (103)

プルーストはパリにいるロベールを呼び出して援助を仰ぐ。だが色々と問題がある。アルベルチーヌの写真を見せた途端ロベールの顔色が変わった。さらにプルーストはこういうセリフをボンタン夫人に言うようにロベールに依頼する。以下引用文。(吉川一義訳)

《「私の友人は、許嫁の叔父さまの委員会のために、ある親族にこの三万フランの用立てを頼んでいました。親族は、婚約のためならと友人にこれだけの金額を工面してくれたのです。で、私は、友人から、アルベルチーヌさんには内緒でこれを届けるようにと頼まれていました。そんな矢先、アルベルチーヌさんが出て行き、友人は途方に暮れています。友人は、もしアルベルチーヌさんと結婚しないのならこの三万フランを返却せざるをえません。もし結婚するのなら、形のうえだけでもアルベルチーヌさんにただちに戻ってきてもらわなくてはなりません、失踪が長引けば困った事態になりかねませんのでね。」》

わざとらしい作り話である。三万フランは千五百万円である。

なおもプルーストの繰り言が続くが突如この様な事を言い出した。以下引用文。(吉川一義訳)

《じつはそのころ私は、ゲルマント夫人の姪でパリ随一の美女という評判の娘から愛を告白する手紙を受けとり、このような不釣り合いな身分違いの縁談も娘の幸福のためには甘受するほかないと考えた両親の意を受けてゲルマント公爵からも働きかけがあったのだが、このことは語るまい。自尊心をくすぐりかねないこのようなできごとも、恋をしているものには辛いばかりである。》

読者としては俄かには信じられないような話である。なお先ほどの工作は失敗に終わっている。