失われた時を求めて (113)

前回空白だったのは、編集しておいたテキストが消えてしまい、再現不可能だったからである。いつの日か書き直して空白を埋めたいと思う。

さてヴェネチア滞在中のプルーストに死んだはずのアルベルチーヌから電報が届いた。またまたミステリアスな展開である。以下引用文。(吉川一義訳)

《「友へ、きっと私が死んだとお思いでしょう、お赦しください、わたしはいたって元気です、お会いして結婚のことなどお話ししたいです、いつお戻りですか?親愛の情をこめて。アルベルチーヌ。」》

このあたりは文章の質が少し回復している。

《私がいちばんよく出かけた先はサン・マルコ大聖堂で、そこへ行くにはまずゴンドラに乗らなくてはなら ず、それゆえサン・マルコ大聖堂がただの歴史的建造物ではなく春の海をわたる旅路の終着地と映り、私にとって大聖堂はその海の水と分かちがたく生きた一体をなしていたから、それがなおさら楽しかったのである。》

パドヴァにも訪れている。

《さんさんと陽光のふり注ぐアレーナの庭園を横切って私がジョットの礼拝堂にはいると、丸天井の全体とフレスコ画の背景がどこまでも青いので、まるで快晴の一日が、見物客といっしょに敷居をまたぎ、その澄みきった空を堂内のひんやりした日陰へ移動させたかと思われた。》

帰りの汽車でカンブルメールの息子とオロロン嬢の結婚の知らせを母から聞かされる。カンブルメールの息子とはルグランダンの妹の子で、オロロン嬢とは仕立て屋ジュピアンの姪でシャルリュスの養女である。またジルベルトからの手紙で、ロベールとジルベルトの結婚の事を知る。