失われた時を求めて (134)

本論に入る前の枕に過ぎないアルジャンクール氏の容貌についての叙述がとても長いのである。11ページもある。その締めくくりの文章を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《かくしてわれわれの目に人生は、幕を追うごとに赤ん坊が青年になり、壮年になり、背が曲がって墓へ近づいて行く夢幻劇のように映る。そして、かなりの間隔をへて採取された人たちがずいぶん違っていると感じるのは、たえざる変化によるものだから、人は自分もまた、この人たちがたどったのと同じ法則に従ってきたのだと感じる。この人たちは、存在することをやめなかったのに、あまりにも変わりはてている、いや、存在することをやめなかったからこそ、その昔われわれが見ていた人間とは似ても似つかぬものになっているのだ。》

ジルベルトから夕食を誘われた時、発した言葉が周囲の失笑を買う。その時のプルーストの内心のつぶやきを紹介する。

《私は、まるで実際の年齢を先取りするかのように「今やもう立派な若者ですね」と言われた時期の自分と同じつもりだったのだ。(略)それにしても今しがた、どっと笑った人たちは、なにを根拠にこの変化に気づいたのだろう?私には白髪ひとつなく、口髭だって真っ黒だ。》