小説 天北原野 (6)

男女のからむ話は俗によくあるような展開になってくる。孝介はあき子を旅行に連れて行く約束をする。それは梅雨の前の5月になるだろう。

かつてあった豊真線の描写が出てくる。孝介は車中にある。

《そんな話を聞くと、自分が罪を犯しているような心地がした。漁場を持っているというだけで、鰊はおもしろいようにとれる。一夜で、人が一生働いても得ることのできない金が、孝介の懐に入ってくる。こんなことでいいのだろうか。時折孝介は、今に何かに罰せられるような不安を感じることさえある。

ふと気づくと、汽車は山間にかかった高い架橋の上をゆっくりと走っていた。眼下にトンネルに入る鉄道線路が湾曲している。豊真線の名所ループ線だ。1・5キロメートルの環状の線路が、ここで交叉しているのだ。つまりループ線は l 字型にぐるりと回って交叉しているのだ。高い所から低い所を見おろしながら、孝介は今、自分が富める者であることに心の痛む思いだった。》

実写で再現されたら鉄道マニアは狂喜するのではないだろうか。このナレーションは石坂浩二の声で脳内再生された。