フォークナー 八月の光 (4)

リーナがやって来た日に起こった大事件、猟奇殺人事件と放火についての概要はわかったが、犯人についてはまだ明示されてはいない。虚言癖のあるブラウンか、カミソリをいつも所持しているクリスマスなのか。

すると突然にクリスマスの生い立ちが詳述される。物心ついたころのクリスマスは孤児院にいた。大人から受ける仕打ちに虚無で対応するような風変わりな子供である。敬虔な長老派キリスト教信者の農家に貰われて行き成人になった。そこでは生きて行く指針、つまり労働と信仰を叩き込まれている。

体罰で教義問当書を暗唱させようとしているのかこのような喜ばしくない場面がある。

《マッケカンは革帯を握って待っていた。「それを置け」と彼は言った。少年は本を床に置いた。「そこではない」とマッケカンが、声に熱をこめずに、言った。「おまえは、この小屋の床に、家畜どものふんづけた小屋の床に、神様の御言葉の書かれた本を置いてもいいと思っとるんだな。その点も、これから教え直してやる。」彼はみずからその本を拾いあげ、棚に置いた。「ズボンをおろせ」と彼は言った。「それを汚してもつまらん」

それから少年は、両足首のまわりにズボンをまとわせ、短かなワイシャツの下から脚を剥きだしにしたまま立った。ほっそりと、まっすぐに立った。革帯が打ちおろされたとき、彼はたじろがなかったし、顔には何の慄えも走らなかった。まっすぐに前方をみていて、その恍惚とした平静な表情は絵にある僧侶を思わせた。》

意地でも覚えようとしないクリスマスの根性を讃えているのか、勉強に元々不向きなのか、なんだかよくわからないのだが、彼が後々犯罪に手を染めるようになることはわかっている。