フォークナー短編集 (18)

読了した。さて少年の目から見た事件のあらましを読者は知る事ができたのだが、事実関係についてはほぼこの通りだろう。

地主宅の納屋に放火したのは少年の父親のアブナー氏であり、オイルを用意して現場に向かったのを少年と家族が目撃している。動機はわりと明白なものがある。被害者のド・スペイン少佐の邸宅にアブナーが馬糞だらけの土足で上がり込み、100ドルもする絨毯を糞まみれにした上、洗濯して返したところボロボロになっていたというものである。怒った少佐は100ドル要求する代わりに小作料から10ドル分の収穫を支払わせると言い、契約書にサインするよう要求した。ところがアブナー氏はサインするどころか治安判事に金額が高すぎるという訴えを提出したのである。審判となり当事者らが尋問を受けるが、アブナー氏の行為は明白であり、結局5ドル分の支払い命令を受ける。

この後前述の犯行に及んだのである。少年は放火を止める事は出来ず丘に逃げて夜を明かし、森へ入っていった。少年は浮浪児となったのである。最後の場面を紹介する。

《星座がゆっくりとまわった。そろそろ明け方に近かった。しばらくすると日が昇り、彼はひもじくなるだろう。しかしそうすると、もうあすになるのだ。いまはただ寒いだけだった。だが、歩いているうちに寒さはなおるだろう。呼吸はもうずいぶん楽になっていたので、彼は立ちあがって歩きだすことにした。すると、自分はいままで眠っていたのだと気がついた。もうほとんど明け方で、夜が終わりそうになっているとわかったからだ。彼にはそれが、ヨタカの鳴き声でわかった。ヨタカはいま、下の方の暗い木立のいたるところにいて、たえず節をつけ、のべつまくなしに鳴きつづけていた。そのために、昼の鳥たちに鳴き声を譲りわたす瞬間が刻々に近づいてきても、彼らの鳴き声のあいだには間隔がぜんぜんないのだった。彼は立ちあがった。からだのふしぶしもすこし痛かった。しかしこれも寒さとおなじように、歩きだすとなおるだろう。それに、太陽がまもなく昇ってくるのだ。彼は丘をおりて、暗い森のなかへはいっていった。森のなかでは、鳥たちのなめらかな銀色の鳴き声が、たえず、やむことなく流れつづけていたーー逝く春の夜の、あわただしい、合唱する心臓の、あわただしくさしせまった鼓動のようだった。彼はうしろをふり返らなかった。》