岩波文庫 エトルリヤの壺 (1830)

パリ生まれのエリート官吏で作家の、メリメによる短編集である。小説『カルメン』の作者である事はそれ程知られていないような気がする。本書は彼の異国趣味が前面に出ているような作品集で、中でも『タマンゴ』はそのまま映画になりそうな出来栄えである。内容をかいつまんで言うとフランスを出港した奴隷貿易エスポワールがアフリカ沿岸に寄港し、黒人奴隷を乗せて帰る途中、反乱が起き悲惨な結末を迎える話である。メリメの筆さばきには実に皮肉が効いていて面白さが増している。奴隷商人の親玉が、自身のミスにより自分も黒人奴隷として船に乗せられたと思ったら、反乱を起こし白人たちを皆殺しにするという展開になる。まあその後は船を操縦できるものがいないというシュールな状況が訪れるのだが。

他の作品の舞台もコルシカ島スウェーデン王室、シュヴェルノの戦い、トレド、パリ社交界と非常にヴァラエティーに富んでいるのである。