映画 乳母車 (1956)

冒頭で大学生と思しき男女四人がプール付きの邸宅で何か議論を始めるのだが、何かと思えば主人公のとも子(芦川いづみ)の父親の不倫の事である。娘のとも子がその事を知らないのは今の時代いけてないという事らしい。不倫といっても妾宅にお手伝いも居るという堂々たるものである。其処には桑原ゆみ子(新珠三千代)という若くてしっかりした美人が赤子と住んでおり、父親の次郎が日曜日に通っていたのである。

この事を知ったとも子は母親のたま子に詰め寄り彼女の事勿れ主義を批判するのだが、たま子の方も妾宅の在処をとも子に教えるという反撃に出たのである。とも子はフラフラとその妾宅へ向かうが、意を決して訪問する。中にいたのは弟の宗雄(石原裕次郎)でなかなか明るい気性の持ち主で、とも子と意気投合するのである。この無理がある展開も石坂洋次郎の筆さばきで健全な感じで進んで行く。そして最後はこの子が森永赤ちゃん大会に出場し入賞を果たすのである。賞品として森永粉ミルクが積んであったのには少々驚いた。ヒ素ミルク事件が起こり始めたのは1955年頃の事である。

この映画の23年後に向田邦子によるテレビドラマ阿修羅のごとくが出てくる。同じような状況が発覚するのだがリアルで緊迫した展開になる。ユーモアでくるまれているが心の底は阿修羅といったうまい演出になっている。こちらが本当だ。