映画 シェルタリング・スカイ (1990)

汽船から艀で上陸した紳士と淑女の三人組は別に密入国者といういうわけでもなく、普通に税関で手続きして当地のグランドホテルに宿泊する。女流作家と作曲家の夫婦、それと友人という組み合わせである。前途洋々のニューヨーカーという印象である。

この後は言葉数は少ないが洒落っ気のある会話が殆どで饒舌は出てこない。ひとりエリックという白人が饒舌をまとっていたが嘘つきだからである。

やがて旅が始まる。奥地に入って行くにつれ厳しい状況が訪れてくる。夕日の荒野の中では虚空を包む空に抱かれる感興に浸るなど雄大な経験もする。だが戦後すぐのモロッコの交通事情、衛生事情に問題があるようで、作曲家の夫が腸チフスで頓死してしまうのである。

映像は本物で美しいドキュメンタリーとでも言うべきであろうか。モロッコの村、民族音楽、野営する部族の映像が捉えられている。夫が頓死する直前の会話から感じられるとんでもない寂寥感、置いて行かれた妻の限りない絶望感が伝わってきた。

映画でこれほどの表現ができるというのは凄い事である。観る者の胸にしっかりと刻まれた。