森敦 月山 (3)

この本は短編集になっており後残すところ3編ある。

光陰

 今回は主人公が庄内平野の大山というところにいる。大山公園の近くに下宿して何やらぶらぶらしているのである。大山公園からは鶴岡市が一望でき、彼方に鳥海山が見える。狭い廊下を隔てた三畳の間にはばあさんが居て主人公と世間話をするのである。このばあさんから郷土の富豪である嘉八郎の話を仕入れたり、ばあさんの身の上話を聞いたりするのである。これを小説に書けば即ち創作活動になっているのだろう。

 この小説には芭蕉奥の細道からとった短いエピグラフがありその中に光陰というワードがある。それがタイトルになっているのである。

かての花

 今度は主人公は新潟県に来ている。弥彦山の麓に仮の庵を結んでいる。ここは小さいながらも競輪場があり、燕三条に程近いところである。歓楽的な雰囲気があるようだ。ここでの話題は近くに住む老婆と杉林の地主から仕入れたものである。

 一旦話が飛んでダム建設の現場だった熊野の北山川の沢に転がるグリ石について語り始める。台風銀座の紀伊半島には毎年大きな台風が来るのである。台風の去った後にはグリ石が上流に移動するという珍奇な現象がある。

 かての花とは杉林の地主が自嘲気味に語った言葉だが、それが何であるかは小説を読んでもよくわからなかった。

天上の眺め

 これは意外にも熊野のダム建設現場の話だった。道路建設で雇われている朝鮮人と地元民とでトラブルが起こっている話を聞き、主人公はなぜか介入する気はないと言いながら、介入してしまうのである。部落へ単身訪問し、住人の話を聞きシンコ餅とマッコリをいただくのである。その後何故か主人公のソウルでの少年時代の話になった。終わりの二篇は回想のような形で、まとまった章が唐突に現れており、短編としては構成に難があると思われた。

さていよいよ平家物語に挑んでみる。