レイモンド・チャンドラー 長いお別れ(2)

 読了した。二件の殺人の犯人がわかり事件はほとんど解決したように見えたが、最後にとんでもないトリックが当事者により語られる。マーロウはメキシコでの出来事を偽装だと見抜いていて、そのために動き回っていたのだ。

 テリー・レノックスの手紙にこのような一文がある。

『だから事件についてもぼくについても忘れてくれたまえ。だが、そのまえに、ぼくのために〈ヴィクター〉でギムレットを飲んでほしい。それから、こんどコーヒーをわかしたら、ぼくに一杯ついで、バーボンを入れ、タバコに火をつけて、カップのそばにおいてくれたまえ。それからすべてを忘れてもらうんだ。テリー・レノックスのすべてを。では、さよなら。(清水俊二訳)』

 ロジャー・ウェイドの件が一件落着したときも、マーロウは〈ヴィクター〉でギムレットを飲むことは思いとどまったが、突如現れた本人からの〈ヴィクター〉でギムレットを飲む誘いを断って小説は幕を閉じるのである。

 長いお別れの意味は多重的でよくわからないが、死別ではなさそうだ。