闇をさまよう者 (1935)
同業作家のロバート・ブロックを作中で殺すためにだけ書かれた小説だが、妙に筆致が生き生きとしていて明るい作品となっている。描写がラブクラフトの住居と近くにある教会と一致しており、本当におどろおどろしい教会が実在する訳ではない。いろいろと不明瞭な部分があるのだが、闇に飛び出した得体の知れない怪物が恐怖で発狂寸前のロバート・某を死に至らしめたことは確かである。
時間からの影 (1934)
宇宙から来た古生代の生物と現代人とで、精神が交換されるという込み入った話だが、一見して記憶喪失のように見えるらしい。そのような話はわりと見聞する。幼児が前世の記憶をぺらぺらと喋ったりするが、年と共にだんだん消えてゆくという事例の報道がある。この小説と照らし合わせて研究してみると面白いかも知れない。
この話ではそうなってしまった主人公が、研究を重ねてついに仕組みを解明し、夢の中で『大いなる種族』として活動できるようになる。本を読んだり、文を筆記したりしてその文書を書庫に納める作業を行ったのである。ある時おそるおそる自分の姿を見て衝撃を受ける。巨大な円錐形のイカのような姿だった。この辺りはラブクラフトには珍しいシュールでユーモラスな場面である。その後主人公は自分の研究成果を学界に論文として発表し続ける。
クライマックスは、ある鉱山技師が偶然見つけた廃墟が論文にあるそれらしいということで、発掘チームと共に主人公がオーストラリア西部の砂漠地帯に向かう場面である。主人公は夢で何度も見た光景と寸分違わぬものを、真夜中の砂漠の洞窟で発見する。そこには太古から未来までの年代記が収められている書庫があるというのは何だかロマンがある。その中からかつて自分が納入した書類を探し出して、持ち帰ろうとするのだが、とんでもない混乱に巻き込まれ夢うつつのまま脱出したというのが、この話の結末のようである。