美貌の劇作家アガトンの受賞記念の宴会に招かれたソクラテスはその道すがらアリストデモスに呼び止められるが一緒に宴会に行こうとアリストデモスを誘う。ソクラテスはアリストデモスを誘っておきながら宴会の半ばになってやっと現れる。奇行の人のようだ。さて宴会はブドウ酒を飲みながら一人づつ演説をするという趣向になる。神々の中でも独特の位置を占めるエロスについて各自の論を展開しなければならない。有名どころではアリストファネス、医術を行うエリュキシコマス、アガトン、ソクラテスが登場する。
アリストファネスのときに元々の人間は男女がくっついておりそれを神が二つに切ったという有名な話が出てくる。これがベターハーフの由来である。
アガトンの演説もなかなか立派なもので、エロスは若く、柔軟で、優雅で、花のように血色が良い神であると言う。見たわけではないが思惟によりそう推論するのである。また他の神に及ぼす影響からエロスは勇敢で、公正で、自制的であると言う。詩も創作も工芸もエロスの神が触れるとみんな輝き出す。何故なら精妙な生物を作るのもエロスの神の行いなのだから。締めくくりも立派でアガトンの演説は拍手喝采を浴びた。
さていよいよ最後に登場したソクラテスは軽い皮肉を述べた後、対話でアガトンをぺしゃんこにする。ソクラテスはこういう奴だったのだ。だがこの時ソクラテスが語ったマンティネイヤの婦人ディオティマの話の内容はなかなか衝撃的だった。エロスはポロスとペニヤの子で善くも美しくもないが大変優れた能力があり、美しきものを愛する性質を持つという。そして議論の終局は幸福なものが幸福なのは善きものの所有に因るとなっている。煩悩=幸福論は仏教的な思索から得られるものと思っていたがギリシャ哲学からダイレクトに出てきたのには驚いた。
宴もたけなわという時に乱入してきたアルキビヤデスはソクラテスをめぐってアガトンと三角関係にあるという変な奴だった。ソクラテスに対する告白のような弁舌をふるった後アガトンに当てつけられまたもや敗退している。そのあと宴会は翌朝まで続いた。
この宴会の様子をアポロドロスがアリストデモスから聞き、今アポロドロスが読者諸君に語っているというのがこの本の仕掛けになっている。