フォークナー

フォークナー短編集 (18)

読了した。さて少年の目から見た事件のあらましを読者は知る事ができたのだが、事実関係についてはほぼこの通りだろう。 地主宅の納屋に放火したのは少年の父親のアブナー氏であり、オイルを用意して現場に向かったのを少年と家族が目撃している。動機はわり…

フォークナー 短編集 (17)

短編集最後の「納屋は燃える」まで来た。実に遅い読書だが何か書くためにはこのくらいの速度になってしまうのだ。さてフォークナーの小説にはドラマとして再現可能な部分とそうでない心理描写のような部分が混在している。 主人公の少年が町を追われて一家で…

フォークナー短編集 (16)

決闘が終わった後のサートリス家の様子が描かれる。牧場周辺の自然や、鳥の鳴き声のような描写がふんだんに出てくる。牧場の奥まったところにある低地の木陰で夜まで休息したベイアードとリンゴーはひっそりと静まり返った家に戻ると叔母のジェニーが待って…

フォークナー短編集 (15)

当日の朝となった。ベイアードはジェニー叔母さんの最後の懇願も聞かず、何とか助勢しようとするワイアットらの申し出も断り、ものすごい精神状態で弁護士B.J.レッドモンドの古びた事務所に乗り込んでいった。 結果は、書くとこれから読む人に申し訳ないの…

フォークナー短編集 (14)

さていよいよベイアードはジェファーソンにある実家にたどり着いた。 《私は馬からおりた。だれかがその馬をよそへひっぱっていった。私は彼女のところに近づいていった。だが、そのときの私の気持ちは、まるで私自身はまだ馬の背にまたがっていて、彼女がつ…

フォークナー短編集 (13)

このような場面だが会話にいやにリアリティーがある。 《すると彼女が口を開いた。「ベイアード、あたしに接吻してちょうだい」 「だめだよ。あなたはおやじの奥さんじゃないか」 「それに、あなたより八つも年上だし、それから、あなたの遠縁の従姉だわね。…

フォークナー短編集 (12)

事件といっても牧場で父が撃たれたという出来事である。撃った人物はわかっている。父とは「八月の光」でも出てきたあのサートリス大佐である。その瞬間からこの私はサートリス家の当主となり、仇討ちの為の決闘が待っているのだった。家までの40マイルの道…

フォークナー短編集 (11)

「バーベナの匂い」である。今度はすんなりと頭に入ってくる。文章が明晰そのものだからだろう。フォークナーにしては珍しく、人を小バカにしたような表現に出くわした。 《「なにか、わしにできることでもあったら」 「先生、ぼくの下男に新しい元気な馬を…

フォークナー短編集 (10)

残りの数ページを読んでみたら、思った以上の酷たらしい結末だった。サトペン大佐の態度にキレたワッシがサトペン大佐を殺す。この後のことに思いを巡らせたワッシは逃げることもままならぬと思い、全部終わらせる壊滅的行動をとる。その時の彼の思考を精読…

フォークナー短編集 (9)

「孫むすめ」まで来た。何だか読んでもちっとも頭に入って来ないので、部分的精読から入る。 《りっぱな容姿の種馬に乗って、農場を駆けめぐるのを見かけたものだった。その瞬間だけは、彼の心は平静になり、誇らしくもなった。つまり、彼にはこんなふうに思…

フォークナー短編集 (8)

いよいよ喜ばしくない場面が出るだろうと思って読み進むと、ミニー・クーパー嬢の生い立ちと近況が書かれていた。その後にはマクレンドンが帰宅して、自動拳銃をテーブルに置いたところで小説が終わった。マクレンドンは疲労困憊していたようだが、リンチし…

フォークナー短編集 (7)

いよいよ問題作「乾燥の九月」のところに来た。読んで行くと、この辺りの記述が問題の核心部分であるだろうとわかる。 《理髪師は剃刀をかざして、旅商人の顔をおさえつけていた。「まず事件の真相をつかむのが第一ですよ、みなさん。わたしはウィル・メイズ…

フォークナー短編集 (6)

日課であるフォークナーの読書をする。 この最後の場面では、ジェイソン、キャディーとナンシーの掛け合いが繰り広げられ、「私」は見ているだけである。だから一読目では、クウェンティンの目だけ存在するように感じたのだ。さてとうとう父親が迎えにやって…

フォークナー短編集 (5)

私(クウェンティン9歳)、キャディー(7歳)、ジェイソン(5歳)がナンシーの家まで夜道を行く。 《私たちは小道を下っていった。ナンシーは大声でしゃべっていた。 「ねえ、ナンシー、なんでそんな大きな声でしゃべっているの?」とキャディーはたずねた。…

フォークナー短編集 (4)

読み進んでゆくと「私」が場面に登場してちゃんと会話していた。 《「クウィンティンに、行って見てきてもらったらどうだい?」と父がいった。「おい、クウィンティン、ナンシーがもうすんだかどうか、行って見ておいで。もう家に帰ってもいいといってやるん…

フォークナー短編集(3)

『ある夕陽』まで来た。一読すると登場人物が交錯気味で、再読しなくてはならないようだ。殊に終わりの場面で出た「私たち」という言葉に引っかかる。私とは誰なのか。そんな人はいないような気がする。 冒頭の情景描写から熟読してみよう。 《しかし十五年…

フォークナー短編集(2)

『エミリーにバラを』 ジェファーソンに伝わる奇譚と言っていいのか、まあこれはエミリー・グリアソンの簡潔すぎる評伝である。彼女の葬儀から書き始められているが、彼女の一生は外から見ると社会に出ず引きこもって歳をとって死んだだけのように見える。表…

フォークナー短編集(1)

新潮文庫版である。二つ目の『赤い葉』まで来た。情景描写があるので精読するために書き写しておく。 《午後早く、黒人は木のてっぺんから農園のなかを見おろしていた。イセティベハの遺体が、馬と犬がつながれている二本の立木のあいだにつるされたハンモッ…

フォークナー 八月の光 (10)

読了した。事件は派手なアクション映画のような展開となって終結する。パーシー・グリムという25歳くらいの州兵が活躍した。老夫婦は検事に見送られて故郷に向かう汽車に乗る。ハイタワーは、最後の最後にこのいざこざに巻き込まれてしまうが、結局無事だっ…

フォークナー 八月の光 (9)

捜査を担当する保安官は偏見に満ちた無能な保安官というわけでもなく、そこそこ有能なようである。近郊にある黒人教会に現れたクリスマスを、犬を使って追いかける。だが靴を農民と交換していたクリスマスはまんまと追っ手を巻き逃亡生活の後、ゆうゆうとモ…

フォークナー 八月の光 (8)

バイロン・バンチについてはこのような記述がある。 《バンチが住む下宿のおかみのビアド夫人が知っていることといえば、土曜日ごとに六時すこし過ぎるとバンチがはいってきてバスを浴び、いまは古びてきた安サージの服に着かえる、夕食を食べ、家の裏に行っ…

フォークナー 八月の光 (7)

バーデン女史とジョー・クリスマスの関係は一風変わっている。奔放な性的関係が過ぎ去った後、バーデン女史はクリスマスを大学に行かせ、自分の事業の後継者にしようとする。相手の意向もお構いなく有無を言わさないやり方は、当然ながらクリスマスに最大限…

フォークナー 八月の光 (6)

ジョーの逃亡生活のあらましが語られる。そしてジェファーソンにやって来たジョーはバーデン屋敷に住むバーデン女史を見出すのである。独特の嗅覚で年上の女性に接近し取り入るのが得意のようだ。イタリア系に見られるジョーはアルパチーノのような色男と想…

フォークナー 八月の光 (5)

ジョー・マッケカン(クリスマス)の成長過程が描かれている。 《彼ら五人は夕暮れの中で、捨てられた製材小屋の近くにひっそり集まっていて、そのひしゃげた戸口から百ヤードほど離れたあたりに隠れて、見張りながら待っていると、黒人の娘がその戸口に近よ…

フォークナー 八月の光 (4)

リーナがやって来た日に起こった大事件、猟奇殺人事件と放火についての概要はわかったが、犯人についてはまだ明示されてはいない。虚言癖のあるブラウンか、カミソリをいつも所持しているクリスマスなのか。 すると突然にクリスマスの生い立ちが詳述される。…

フォークナー 八月の光 (3)

バイロン・バンチは30過ぎの男で七年前から製板工場で働いている。そこにある日、バーデン屋敷の火事のあった日、リーナが訪ねてきて会話をした。リーナはすぐにこの男ではないと悟ったが、バイロンはリーナの探している男がクリスマスの相棒のブラウンだと…

フォークナー 八月の光 (2)

この町の製板工場でのエピソードが語られる。語り手はバイロン・バンチである。三年前にフラリとやってきたクリスマスという男について観相学的に語っている。 《靴は埃だらけだしズボンは汚れていた。しかしズボンは質のいいサージで筋もきちんとついており…

フォークナー 八月の光 (1)

いよいよフォークナーの小説を読む。新潮文庫版である。 P43までは4週間にわたるリーナの旅である。アラバマから架空の町ジェファーソンまで歩きと馬車で踏破する。途中親切な一家に泊めてもらい路銀まで貰っている。誰もが他人を信用していない世界で、頼り…