フォークナー 八月の光 (9)

捜査を担当する保安官は偏見に満ちた無能な保安官というわけでもなく、そこそこ有能なようである。近郊にある黒人教会に現れたクリスマスを、犬を使って追いかける。だが靴を農民と交換していたクリスマスはまんまと追っ手を巻き逃亡生活の後、ゆうゆうとモ…

フォークナー 八月の光 (8)

バイロン・バンチについてはこのような記述がある。 《バンチが住む下宿のおかみのビアド夫人が知っていることといえば、土曜日ごとに六時すこし過ぎるとバンチがはいってきてバスを浴び、いまは古びてきた安サージの服に着かえる、夕食を食べ、家の裏に行っ…

フォークナー 八月の光 (7)

バーデン女史とジョー・クリスマスの関係は一風変わっている。奔放な性的関係が過ぎ去った後、バーデン女史はクリスマスを大学に行かせ、自分の事業の後継者にしようとする。相手の意向もお構いなく有無を言わさないやり方は、当然ながらクリスマスに最大限…

東洋文庫 白凡逸志 金九自叙伝 (1947)

本書は 亡命中の金九が上海と重慶で執筆した自叙伝である。当時金九は大韓民国臨時政府主席であったという。このような記述がある。 《安進士は、海州府中に十余代もつづいた旧家の出だった。進士の父の仁寿は、鎮海県(慶尚道)の県監(長官)を勤めたが、…

フォークナー 八月の光 (6)

ジョーの逃亡生活のあらましが語られる。そしてジェファーソンにやって来たジョーはバーデン屋敷に住むバーデン女史を見出すのである。独特の嗅覚で年上の女性に接近し取り入るのが得意のようだ。イタリア系に見られるジョーはアルパチーノのような色男と想…

フォークナー 八月の光 (5)

ジョー・マッケカン(クリスマス)の成長過程が描かれている。 《彼ら五人は夕暮れの中で、捨てられた製材小屋の近くにひっそり集まっていて、そのひしゃげた戸口から百ヤードほど離れたあたりに隠れて、見張りながら待っていると、黒人の娘がその戸口に近よ…

東洋文庫 日本お伽集 1 (1920)

小説風なので文章を例示する。大変素朴で面白い。 浦島太郎 《二、三日たってから、浦島は舟に乗って海に出かけました。遠い沖へこぎ出して、一心におさかなを釣っていますと、後ろの方で、 「浦島さん、浦島さん。」 と呼ぶこえがします。「おや、誰だろう…

フォークナー 八月の光 (4)

リーナがやって来た日に起こった大事件、猟奇殺人事件と放火についての概要はわかったが、犯人についてはまだ明示されてはいない。虚言癖のあるブラウンか、カミソリをいつも所持しているクリスマスなのか。 すると突然にクリスマスの生い立ちが詳述される。…

フォークナー 八月の光 (3)

バイロン・バンチは30過ぎの男で七年前から製板工場で働いている。そこにある日、バーデン屋敷の火事のあった日、リーナが訪ねてきて会話をした。リーナはすぐにこの男ではないと悟ったが、バイロンはリーナの探している男がクリスマスの相棒のブラウンだと…

東洋文庫 朝鮮独立運動の血史 1 (1920)

東学党の乱についての記述がある。 《こうして、わずかな間に、京畿、江原、黄海、慶尚の諸道に蔓延し、その勢は燎原の火のようであった。全州域を攻略した時、「ソウルに兵をすすめ、君側の奸を除こう」と声明した。 朝廷は、おどろきおそれ、清国に救援を…

フォークナー 八月の光 (2)

この町の製板工場でのエピソードが語られる。語り手はバイロン・バンチである。三年前にフラリとやってきたクリスマスという男について観相学的に語っている。 《靴は埃だらけだしズボンは汚れていた。しかしズボンは質のいいサージで筋もきちんとついており…

フォークナー 八月の光 (1)

いよいよフォークナーの小説を読む。新潮文庫版である。 P43までは4週間にわたるリーナの旅である。アラバマから架空の町ジェファーソンまで歩きと馬車で踏破する。途中親切な一家に泊めてもらい路銀まで貰っている。誰もが他人を信用していない世界で、頼り…

東洋文庫 沖縄童謡集 (1934)

本書は那覇市立高女の生徒たちが課題として夏季休暇に蒐集した郷土の童謡を先生が整理編集したものである。一部を紹介する。 《37 烏 其の二 イエー、がらさー まーかいが。 わつたーあんまー(阿母) みーめー(見舞)しいが。》 《51 蜻蛉 其の1 ざーちが…

小説 天北原野 (12)

敗戦の混乱と失意を経て孝介と貴乃がエゾカンゾウの咲き誇る原野に立っている。 《オレンジ色の花群が、道の左右に、遥か彼方の地平線まで、敷きつめたように続いていた。その果てしないエゾカンゾウの大群落を眺めながら、二人は言葉もなかった。 しばらく…

小説 天北原野 (11)

あき子の末っ子の澄男の小学校入学祝いの席での会話である。 《「ところで、この戦争はどういうことになるのかな」 達吉が背を屈めて独酌しながら言う。 「そりゃあ、勝つにきまってるさ」 伊之助も上機嫌だ。電灯に頭がてらてらと光る。 「勝つかね。ガダル…

小説 天北原野 (10)

下巻に入る。ある日孝介と貴乃と子供たちは行楽を楽しむ。完治は兵役に行っており、あき子は赤ちゃんと留守番している。 《やがて左手前方に多来加部落の家々が砂に埋まりそうに建っているのが見えてきた。家々の間に馬鈴薯の紫の花が風に揺れている。部落の…

小説 天北原野 (9)

完治にいわゆる赤紙が来た。強がる完治だが動揺もある。貴乃は千人針を作って完治に持たせる。出征の日の描写がある。 《汽車は大泊駅でとまり、乗客が少し降りると、港駅に向かって発車した 。防波堤の向こうの亜庭湾に突き出して港駅はある。海中に長い鉄…

小説 天北原野 (8)

夫婦の間のことはよくある展開になっているので省略する。こういう記述がある。 《旧市街と呼ばれるロシア人の部落が、豊原の街の北外れにある。くもった空の下を、孝介は用のない人のように、ゆっくりと旧市街に向かって歩いて行く。イワンを訪ねるためなの…

小説 天北原野 (7)

不凍港である真岡漁場の描写がある。 《この家の望楼には、若い者が海を睨んで、鰊の群来を待っている筈だ。孝介もまた、桜井五郎治の世話になった年から、何年もこの望楼に登って、見張りの若者と共に、じっと海を眺めたものだった。夕暮れの海辺に、俄かに…

小説 天北原野 (6)

男女のからむ話は俗によくあるような展開になってくる。孝介はあき子を旅行に連れて行く約束をする。それは梅雨の前の5月になるだろう。 かつてあった豊真線の描写が出てくる。孝介は車中にある。 《そんな話を聞くと、自分が罪を犯しているような心地がした…

東洋文庫 修験道史研究(1942、1972)

本書は和歌森太郎の卒業論文に数編を加えて昭和十七年に河出書房より刊行されたものの復刻である。一部を紹介する。 10P 《はじめ、漠然と、修験道及びその主体たる山臥のことを歴史的に考究しようと志したさいに、思い浮かべた山臥は、第一に述べたような山…

小説 天北原野 (5)

あき子はついにピアノ教師のイワンと情事を行うようになる。それと同じ頃、孝介はある企てを実行する。 《明るく点る灯の下をくぐって、料亭花の家の広い玄関に、黒い細身の蛇の目傘をすぼめて入ったのは、梅香だった。うすい藍地に白の渦巻きの流れる衣裳が…

小説 天北原野 (4)

樺太の吹雪がとても恐ろしいことは住んでいる者なら承知している。完治はついに雪に埋まり、あとは犬に囲まれて死ぬか、という間際に小屋を見つける。九死に一生を得たのである。貴乃にとっては皮肉な結果となった。狂喜したのは伊之助である。 向田邦子も顔…

小説 天北原野 (3)

樺太の山の描写がある。 《杉の木のように真っすぐに伸びた、エゾ松・トド松が、山の斜面にぞっくり立っている。その山の下の沢沿いに、二棟の飯場が横長に建っている。ここに、杣夫をはじめ造材労務者百二十余人が寝起きしているのだ。 飯場は荒板を釘で打…

東洋文庫 耳袋 1(1814年頃)

南町奉行の旗本根岸鎮衛が書きためた雑話集で全十巻あり、東洋文庫には二冊に分けて収められている。本文の一部を紹介する。 《盲人かたり事いたす事 安永九年の事なりしが、浅草辺とや、年若の武家、僕従三人召連れ通りしに、一人の盲人向こうより来たり、…

現代文学

プルースト、カフカと来れば次はフォークナーだ。 新たな読書体験が待っている。

小説 天北原野 (2)

三浦綾子の小説の続きである。樺太の首府豊原の描写がある。 《すっかり日が暮れて、暗くなった豊原の街を、孝介とあき子を乗せた自動車が走っていた。外の寒さで、車窓は水蒸気に濡れている。中指でそっと窓を拭い、あき子は珍しげに豊原の街を眺めている。…

東洋文庫 近世畸人伝 (1790)

短い伝記のようなものや説話のようなものが混在している。一部を紹介する。 《内藤平左衛門 関東のならひ、貧民、子あまたあるものは後に産せる子を殺す。是を間曳といひならひて、敢えて惨ことをしらず。貧凍餓に及ばざるものすら、倣ひて此事をなせり。官…

小説 天北原野 (1)

三浦綾子の1976年の小説である。今140ページまで読んだところである。孝介とあき子の披露宴の場面まで来てだんだん面白くなってきた。孝介一家の赴任先ハマベツの描写がある。 《ハマナスの花の一群が風に揺れている。その向こうに、七月の太陽にきらめく海…

東洋文庫 日本の茶書 1 (1971)

林屋辰三郎氏による「茶書の歴史」の章より内容を紹介する。 茶の起源において特に重要なのは、唐の時代(760年ごろ)に書かれた陸羽による『茶経』 三巻と、遣唐使として35年間唐に滞在した僧の永忠である。 《さて唐の風俗は、すべてが王朝人のあこがれで…