本
もう一人の息子アドヘルバルは属州に逃げ込んだのちローマへ向かった。一方ユグルタはというと。 《そこで数日の後、莫大な金銀を携えた使者たちをローマに派遣し、彼らに次のような指示を与えた。まず旧い友人たちを贈物で堪能させ、ついで新たな友を手に入…
いよいよ本題に入って行くのだが筆の勢いが凄かった。当事者しか知り得ないようなやりとり、一字一句写し取られたような演説、湧き上がる恐怖心などが描かれている。ユグルタ及び買収されたローマ側の高官たちは随分あくどいことをやったものだ。だがそうい…
《私が書こうとしているのは、ローマ人民がヌミダエ人たちの王ユグルタとの間に起こした戦争である。(略)》 この後は言うほど明快な文章でなかったので、少し要約してみる。 背景として、著者はローマにおける門閥貴族の悪行、第二次ポエニ戦争の戦後処理…
日本に生まれれば岩波文庫は小学生の頃から目にするだろうが、長いし読んでもわからないような本である。高校生くらいには読めるようになるだろうが、その頃はもう時間が割けなくなる。大学生の頃読めばよかったとは思うが、もっと読みやすい本多勝一や西村…
正直に冒頭に書いてしまったので、この後は手を替え品を替え同じような事を論述しているに過ぎない。比喩を用いたり、逆説風に論じたり、言葉を変えたり、時にはプラトンやデカルトを引用し、ある部分ではソフィストの言辞を批判しているように見えるのだが…
改めて冒頭の部分を読んでみる。(P67) 《「というのも、『存在する』という表現をつかう場合、じぶんたちがそもそもなにを意味しているのか、きみたちのほうがやはり、ずっとまえからよく知っているのはあきらかだからだ。私たちの側はどうかといえば、以…
方法論としての現象学を調べて行くとフッサールの主張は対象への接近度と観察者の直観を重視しているように見受けられる。データを取る対象を近代的視点から記述して行くと確かに失われれてしまうものが多くなる。人類学研究の理想は部族の一員になりきって…
この表題からは科学論文みたいに2ページくらいにならないのかという疑問が湧いてくる。哲学は自然科学ではないのだろうか。今の私には考える時間は青天井くらいに存在する。まだ読む前だが、ハイデガーの主張は結局ソクラテスのメノンに戻るだけだったらがっ…
本文から少し紹介する。 《アブドル・ラーマン老人の二番目の息子が、ダバーという黒い汚いツボのようなものをもって来てくれた。これは、この村でつくるという。材料は、ブテ・イ・シリシとう一種の植物である。その根を乾かし、水車でひく。それを布でこし…
京都大学探検隊による1955年の記録である。著者の梅棹忠夫はこう書いている。 《わたしは、キャンプ地をさがすために、村の中を巡視する。まあ、なんというひどいところに住んでいるものだろう。どっちを見ても、赤茶けた岩山ばっかり。これは、世界の果てだ…
今週もまた同じように本と模型とスコアで時間の針を進め、週末は息抜きをする。映画も一本観る。 モゴール族探検記を二週間くらいかけて読む。著者はカンダハルからカブールに移動し仲間を待っているところである。 プラカラーの白とツヤあり黒を追加し、マ…
このような記述がある。 《二 シュルレアリスムにのめりこむ精神は、自分の幼年時代の最良の部分を、昂揚とともにふたたび生きる。それはなにか精神にとって、いましも溺死しようとしているときに、自分の生涯のすべてを、またたくまに思いおこしてしまうひ…
とうとうここにぶち当たってしまった。若い頃当然読んではいたし、当時世間でもエピステーメー、蓮實重彦、冷し中華思想などで賑わっていた。蓮實氏の御子息は作曲家である。僕もシュールレアリスム風の絵を描いたり、作詞もしていたが長い間社会に揉まれて…
天下国家を論じ、国のために官僚を志す若者なら『塩鉄論』と『ユートピア』くらいは読んでおくべきだろう。ただし『ユートピア』の方は皮肉が効いているので、読むと志望先が変わるかもしれない。 浮浪者然としたラファエル・ヒロスデイはこう語った。 《モ…
かなりローカルで稀少な歴史が綴られているのでここに記しておこう。(P159) 《アルタイの牧人と狩人は、ロシアの植民者によって絶え間なく、やせて不毛な土地へと追いやられた。一九〇〇年ごろ、シナで大衆が魔術にたけた義和団のまわりに結集したとき、同…
パリ生まれのエリート官吏で作家の、メリメによる短編集である。小説『カルメン』の作者である事はそれ程知られていないような気がする。本書は彼の異国趣味が前面に出ているような作品集で、中でも『タマンゴ』はそのまま映画になりそうな出来栄えである。…
著者のオットー・メンヒェン=ヘルフェンはウィーン生まれの民俗学者で1929年にトゥバ入りし、調査活動に励んでこの書をものにした。とても理知的な人物でその文章からそれが窺われる。 《トゥバ人はいかなる肥料も用いない。降水量はわずかだし、犂はあまり…
ゆっくり読んでいると面白い。このような記述がある(p75)。 《その上さらに、民衆を敵にまわしたならば、その数があまりにも多いために君主は身の安全を保ち得ないが、有力者たちならば、数は少ないから身の安全は保ち得る。民衆を敵にまわすことによって…
この書は序文にあるように、君主(メディチ家)に対する阿諛甘言を排したストレートな論文集であり、フィルドゥスィーの『王書』のようなものとは異なっている。非常に明快な文章なので少し紹介する。 《それゆえ言っておくがこの場合の政体、すなわち獲得の…
せっかく読んだので少し内容を紹介する。冒頭部分では線分と円を用いて四則演算ができる事を示している。 乗算 DB x BC を作図する。AB=1 であるとする。 求める積はBEとなる。線分ACと線分DEは平行になるよう作図する。 平方根 AB=1 としてBCの平方根を求…
デンマークの実存主義哲学者キルケゴールの著作である。少し引用するとよくわかるが、死と絶望の語句をもてあそんでいるように見える。(p32) 《さてこの究極の意味において絶望は死に至る病である。ーー自己のうちなるこの病によって我々は永遠に死ななけ…
オイディプスの死後、戦争が始まって二人の息子が相討ちになって死んだ。新しく王になったのはあのクレオンである。物語の発端はクレオンの出した命令である。攻めてきた方の息子のポリュネイケスの死体を埋葬せずに道端に放置し、これを埋葬したものは死刑…
コロノスとはアテネ郊外の森に隣接した地で、アテネ王テセウスの統治下にある。自ら盲目になりテーバイから追放されたオイディプス王は娘のアンティゴネに手を引かれて放浪の旅に出るが、最後の地コロノスの森にやってきた。このような会話がある。 《オイデ…
この劇の完全復元上演の試みは海外ではあるようだが映像媒体で入手できるものは無いようだ。岩波文庫のテキストからひたすら想像してゆくしかないだろう。 この劇は始まる前のストーリーが長くてアポロンの神託やスフィンクスの場面は飛ばしていきなり疫病と…
近隣の都市から来た青年貴族のメノンに対して行ったソクラテスの講義のようなもので、これが哲学だと言えるものだ。 メノンの質問とは、 「徳とは教育によって教え得るものか?」 というものであった。ソクラテスはそもそも「徳」について誰も知らないと言う…
全体的には難解で作者が何者だか解らない感じである。地獄の使者?死刑囚?わりとわかりやすかったところを一部紹介する。 《『お利口な方々』はキリストと一緒に生まれなすった。それというのも俺たちが霧でも耕しているからではないのか。俺たちは俺たちの…
最近はシルクロード、刑事コロンボ、シャーロックホームズの冒険と再放送が続いているのでうれしい。今回のシルクロード第2部(7)ではマルコポーロの旅程を辿っており、チグリス・ユーフラテス川下流の湿原マーシュランドを取材している。泥と葦で作った水…
読了した。さて少年の目から見た事件のあらましを読者は知る事ができたのだが、事実関係についてはほぼこの通りだろう。 地主宅の納屋に放火したのは少年の父親のアブナー氏であり、オイルを用意して現場に向かったのを少年と家族が目撃している。動機はわり…
短編集最後の「納屋は燃える」まで来た。実に遅い読書だが何か書くためにはこのくらいの速度になってしまうのだ。さてフォークナーの小説にはドラマとして再現可能な部分とそうでない心理描写のような部分が混在している。 主人公の少年が町を追われて一家で…
決闘が終わった後のサートリス家の様子が描かれる。牧場周辺の自然や、鳥の鳴き声のような描写がふんだんに出てくる。牧場の奥まったところにある低地の木陰で夜まで休息したベイアードとリンゴーはひっそりと静まり返った家に戻ると叔母のジェニーが待って…