2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

失われた時を求めて (86)

プルーストの文章は美文調であったり、哲学的叙述であったり、卑俗な喜劇風のこともあるが、吉川一義氏の日本語訳は一貫して格調があり、語意は正確そのもので、文字面の見た目にも気を遣っているように思われる。この辺りの訳出文を見ていただきたい。 《「…

2020年プリアンプ (25)

部品がまだあるので第三のイコライザーを製作する。わりと最新の金田式を改変したものである。改変といってもそれなりの合理性に基づいたもので、音の良さはプリアンプII で確認済みである。

失われた時を求めて (85)

プルーストの日課はゲルマント夫人を訪ねてファッションの素材や仕立て方について教わり、それをアルベルチーヌのために作ってプレゼントしようとする事、部屋に帰りアルベルチーヌと遊ぶ事、友人が会いにくるとアルベルチーヌを隠して応接する事といったと…

2020年プリアンプ (24)

現在の稼働状況 安定に動作させるためにパスコンとスナバーを追加してある。音は透明で静寂で美しいといったこれまでに聴いたことがない音がしているのは事実である。カートリッジもいろいろ試しているが音像が分離するもの、芯があるものに別れる。シンバル…

失われた時を求めて (84)

本書の世間での反響が伺える記述がある。シャルリュス氏とヴォーグーヴェール氏の羽目を外したような散歩の光景を書いた後にこう述べている。以下引用文。(吉川一義訳) 《ジュピアンの店へ話をもどす前に、作者としては、かくも奇妙な描写に読者が不快を覚…

東洋文庫 康熙帝伝 (1697)

本書はフランスのイエズス会士ブーヴェ(1656〜1730)によって著された康熙帝に関する報告書で、ルイ14世に献呈する目的で書かれたものである。その語り口は報告書と言うよりは子供に語り聞かせるようなものに近い。本文の一部を紹介する。 《康熙帝は宝算正…

失われた時を求めて (83)

プルーストがバルベックを逃げ出した本当の理由を白状している。以下引用文。(吉川一義訳)《たしかにバルベックを逃げ出したのは、アルベルチーヌが笑いながら、もしかすると私をあざ笑いながら悪事をはたらくのではないかと怖れた私が、本人が二度とあれ…

失われた時を求めて (82)

第10巻に入る。パリに戻って来たプルーストはアルベルチーヌと同居を始める。母は二人の結婚には反対だが何も言えないでいる。今の状況をプルーストは箇条書きで簡潔に記している。以下引用文。(吉川一義訳) 《バルベックから帰ると私の恋人がパリで私と…

失われた時を求めて (81)

第9巻の後半はエピソードの羅列に過ぎないが、プルーストの文章のキレが神がかってくる。この辺のやり取りは京都でよくある話とそっくりだと思う。以下引用文。(吉川一義訳) 《カンブルメール家の人たちは、その晩餐会を実際にはシックな世界の精華という…

カンガルーノート (5)

第5章に入る。この辺りからは初期の短編に近い感じになっている。新交通体系研究所という看板を掲げた民家に、変なアメリカ人とトンボ眼鏡が同棲している。そこの空き地に主人公は居候する事になる。民家のそばに踏切があり電車が近づくとRUNの表示が出る仕…

2020年プリアンプ (23)

プリアンプ I より音が悪かったので、イコライザーアンプを改良した。 電源電圧を下げるとエミッタ抵抗を取り除くことができる。 バイポーラTRではエミッタ抵抗がスイッチング歪みの原因になる。この回路はシンプルだがノンスイッチング回路の一種である。 …

カンガルーノート (4)

しばらく温泉地での話が続くかと思ったら意外にも次の場所に移動する。トンネルから鉄砲水が噴き出してきて主人公はベッドごと流されて行く。着いたところはキャベツ畑、気がつくと満月の夜、三味線を持った老婆が現われる。顔には皺が刻まれていて眼が無い…

カンガルーノート (3)

船が暗渠水路を進むと滝壺に落ち、船はバラバラに壊れベッドだけが河原に乗り上げた。周りの景色は夕暮れか朝焼けの荒涼としたもので、硫黄の匂いが鼻に付く。川は水がきれいで40度の露天温泉となっている。主人公が露天温泉に浸かっていると市の職員が現れ…

失われた時を求めて (80)

パリ大学医学部教授コタール氏についてのプルーストの評価である。以下引用文。(吉川一義訳) 《ドクターは田舎女である母親の乏しい知恵袋からとり出された助言を胸にパリに出てきたあと、医学の道で出世をめざす者が長年にわたって積まざるをえない純粋に…

2020年プリアンプ (22)

プリアンプIII 再び登場。何と言ってもデザインが優れている。 バッテリー式はやっぱり音がいい。 電力節約のためにイコライザーはオフにできるようになっている。

失われた時を求めて (79)

今回のバルベック滞在ではアルベルチーヌと自動車で散策し、訪ねてきた友人と会ったりしている。ホテルの従業員とも接するが、厳しい目で観察している。建前かもしれないがプルーストの人との接し方の原則が述べられている。以下引用文。(吉川一義訳) 《私…

2020年プリアンプ (21)

MC対応イコライザー基板が組み上がったので動作を確認した。 週末にはいよいよプリアンプ III が稼働開始する。

失われた時を求めて (78)

ショパンの生演奏が聴けたらどんなに凄いだろうか。以下引用文。(吉川一義訳) 《「ショパンが演奏するのを聴いたことは一度もないが」と男爵は言った、「しかしその機会がなかったわけじゃない。私はスタマティのレッスンを受けていたが、そのスタマティか…

東洋文庫 東洋金鶏 (1866〜1868)

本書は幕府の旗本である川路聖謨(かわじとしあきら)がロンドン留学中の嫡孫、川路太郎に書き送った日記である。国内情勢や教訓、日常の雑事が主な内容である。本文より一部を紹介する。 《(1866年11月)廿二日 晴、夜微雨 夜に入り、例の通りお花来る。い…

失われた時を求めて (77)

まあプルーストはお金持ちなので、アルベルチーヌとお出かけのときに馬車ではなく自動車を手配したのである。アルベルチーヌはことの外喜んだが、プルーストも乗ってみて驚いた。以下引用文。(吉川一義訳) 《要するに、サン=ジャンには二十分ほどで行ける…

失われた時を求めて (76)

モレルがバイオリンの腕を披露する。曲はフォーレの「バイオリンとピアノのためのソナタ第1番作品13」という実在のものである。その後にこのようなやりとりがあった。以下引用文。(吉川一義訳) 《その曲が終わると、私はフランクを聴かせてほしいと所望し…

2020年プリアンプ (20)

プリアンプIIIのイコライザーのテスト。 ±15Vで設計したので出力エミッタ抵抗に4.7Ωを入れた。DCサーボが動作してオフセットは0V、エミッタ抵抗が効いてアイドリング電流は4.5mAで安定している。

失われた時を求めて (75)

晩餐会も佳境に入ってくる。ヴェルデュラン氏が「なにぶん私は貴族の称号をなんら重視しておりませんので」と言って薄ら笑いを浮かべ、シャルリュス男爵にさらにこう言ったのである。以下引用文。(吉川一義訳) 《「ただ、ほかでもないカンブルメール氏がお…

失われた時を求めて (74)

カンブルメール夫妻が到着する。カンブルメール氏の容貌についてプルーストはこう描写している。以下引用文。(吉川一義訳) 《(略)その風貌に驚いた。たしかに慣れれば気にならない。しかしその鼻は、これほどの不細工はないという唯一の輪郭をわざわざ選…

2020年プリアンプ (19)

プリアンプIII が改修中なので、完全無欠のプリアンプ I (DCサーボ、DUALGATE MOS FET、バッテリー電源採用)でレコードを楽しむ毎日である。 The Kinksの1969年のアルバム『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』 をずっと聴いている。ビートル…

失われた時を求めて (73)

この小鉄道の旅で起こった小事件やらメンバーの会話、それにまつわる話を足してゆくと長い長い文章が出来上がるのである。まず三等切符しか持たない農夫がプルーストらの車室に迷い込んでくると、コタールは乗務員を呼んで農夫を列車からつまみ出すのである…

失われた時を求めて (72)

第9巻に入る。ひょっこりひょうたん島の様になって来た。ラ・ラスプリエールの晩餐会に出席するためにプルーストは小鉄道に乗る。この列車に今日出席する者たちが乗り合わせてくるのである。まずパリ大学医学部のコタール教授、ソルボンヌの教授ブリショ、…

東洋文庫 魯庵随筆 読書放浪 (1933)

本書は内田魯庵(1868〜1929)の第二随筆集として昭和八年に出版されたものの東洋文庫版である。内田魯庵は小説家、評論家、翻訳家として活躍し、丸善の顧問として「学燈」の編集にも携わったという。内容、文体が分かるよう本文を一部紹介する。 《 西行芭…

失われた時を求めて (71)

《ある日、私たちがグランドホテルの前の堤防上に集まっていた時、》 第8巻の最後の重要場面である。カンブルメール若公爵夫人(ルグランダン氏の妹)との初の交流が実現する。プルーストと居たのはアルベルチーヌ、アンドレ、ロズモンドで、やって来たのは…

失われた時を求めて (70)

前回の逗留と同じくフランソワーズが使用人として上階の部屋に泊まり、隣の部屋には母がいるという状況である。そしてアルベルチーヌがいつでもやって来てプルーストの欲望を満たしてくれるのである。だがアルベルチーヌに対する疑惑がだんだん現実のものと…