プルースト

失われた時を求めて (141)(完)

プルーストはこれまでの追憶をよせ集めるようにしてある結論を導き出している。以下引用文。(吉川一義訳) 《私はいまや元ヴェルデュラン夫人のところでサン=ルー嬢に紹介されようとしている。そのサン=ルー嬢にアルベルチーヌの代役になってくれるよう頼…

失われた時を求めて (140)

フォルシュヴィル夫人(オデット)は今はゲルマント公爵の愛人になっている。プルーストはこれについて述べてゆき自分のことにも言及する。以下引用文。(吉川一義訳) 《オデットはそんなふうに幽閉されていることを私には率直に打ち明けたが、それにはさま…

失われた時を求めて (139)

ゲルマント大公邸での500人を集めてのパーティーも中盤にさしかかり出し物が登場する。ラシェルによる詩の朗読が始まった。ジルベルトと会話中だったプルーストは、その大げさな演出に驚き皮肉を込めた描写をしている。以下引用文。(吉川一義訳) 《予告さ…

失われた時を求めて (138)

プルーストは今後のことについて重要なことを述べている。これから執筆生活に入るのである。以下引用文。(吉川一義訳) 《もちろん私は、さっそくあすから、今度はひとつの目的を持ってではあるがふたたび孤独な生活に戻るつもりだった。仕事のあいだは、私…

失われた時を求めて (137)

これがプルースト少年の長年にわたって行われた密かな趣味なのである。以下引用文。(吉川一義訳) 《ドクター・ペルスピエの結婚式のときに見かけたゲルマント夫人といい、私の大叔父のところで出会ったバラ色の服のスワン夫人といい、それらは、スワンやサ…

失われた時を求めて (136)

プルーストは社交界自体の変貌、没落について持論を展開する。以下引用文。(吉川一義訳) 《それでも、時が流れ去り、私の過去のささやかな部分が消滅したという印象が強く感じられたのは、こうしたまとまりのある集団(ゲルマント家のサロンがそうであった…

失われた時を求めて (135)

プルーストは皮肉を込めたいい文章を書く。思ったことをスパッと書いている。以下引用文。(吉川一義訳) 《ワルツを踊っていた女にかくも巨大な肉体を与えることができ、歩行に困難をきたした女の動きをメトロノームのように遅くすることができ、たしかに昔…

失われた時を求めて (134)

本論に入る前の枕に過ぎないアルジャンクール氏の容貌についての叙述がとても長いのである。11ページもある。その締めくくりの文章を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳) 《かくしてわれわれの目に人生は、幕を追うごとに赤ん坊が青年になり、壮年になり、…

失われた時を求めて (133)

この小説が三幕物のオペラであるとすると、第1幕がプルースト少年の冒険、第2幕がパリでの隠遁生活と第一次世界大戦、第3幕がゲルマント大公邸でのパーティーという風に構成できると思う。そして第14巻はこのゲルマント大公邸でのパーティーの様子が書かれ…

失われた時を求めて (132)

スワンのことを回顧しながらプルーストが自らの人生を総括している。以下引用文。(吉川一義訳) 《よく考えてみれば、私の経験の素材はいずれ私の書物の素材となるが、結局その素材はスワンに由来するものだった。スワン自身やジルベルトにかんするすべてが…

失われた時を求めて (131)

第13巻も終わりに近づいてプルーストの論調が冴えわたってきた。以下引用文。(吉川一義訳) 《人生がわれわれに差し出すイメージは、実際にはそのときどきにさまざまに異なる印象をもたらしてくれた。たとえば、かつて読んだ本の表紙は、そのタイトルの文字…

失われた時を求めて (130)

ジョルジュ・サンドのフランソワ ・ル・シャンピという本についてかなり難解な意味づけを行なった後、一般的な文学論の談義をしている。以下引用文。(吉川一義訳) 《それゆえ「さまざまな事物を描写する」だけに甘んじ、その事物の輪郭や外観の貧弱な一覧…

失われた時を求めて (129)

人生逃亡者プルーストの自白調書とも言えるこの文章に明確に彼の自負と言える箇所を発見した。以下引用文。(吉川一義訳) 《「知的な歓び」についていえば、たとえ私の洞察力あふれる目なり正鵠を射る論理なりがあれこれの事項を指摘しようと、なんの喜びも…

失われた時を求めて (128)

今プルーストはこのような精神状態にある。以下引用文。(吉川一義訳) 《それゆえ、運命がたとえ私にさらに百年の生を、それも身体の障害に見舞われない生を余分に与えてくれたとしても、それは長くつづく人生につぎつぎと延長期間をつけ足すだけにすぎず、…

失われた時を求めて (127)

ロベールの死が語られる。名誉の戦死だがプルーストは冷たいもんである。言葉だけはしつこいくらいに賛辞を並べてはいる。心にもない褒め言葉の裏では高騰したデビアス株の事を考えているのだ。そういうプルーストの消息についての記述がある。以下引用文。…

失われた時を求めて (126)

なにが起こっているかというとあのジュピアンが男性専用娼館をシャルリュス氏のために経営していたのである。以下引用文。(吉川一義訳) 《「私のことで間違った評価をなさらないでいただきたいのです」とジュピアンは言った、「この商売じゃ、想像なさるほ…

失われた時を求めて (125)

この会話の続きにあるこの小説のいちばん気に入った部分を書いておく。以下引用文。(吉川一義訳) 《「いいかね、ボッシュの兵士というのは、すばらしく屈強な男たちでね、たくましく健康で、考えることといえば祖国の偉大さ、つまりドイチュラント・ユーバ…

失われた時を求めて (124)

複雑怪奇なるヨーロッパ情勢もシャルリュス氏によれば簡明に解釈できる。以下引用文。(吉川一義訳) 《「この種の有力な推測は、コーブルクのフェルディナントの場合と同じくヴィルヘルム皇帝にも当てはまるので、フェルディナント国王が「残忍な帝国」の側…

失われた時を求めて (123)

不思議な現象を観察したシャルリュス氏はこう語っている。以下引用文。(吉川一義訳) 《「それに奇妙なことがあって」とシャルリュス氏は、ときに発するかん高い小声でつけ加えた、「一日じゅう幸せそうにしていて、上等のカクテルを飲んでいるような人たち…

失われた時を求めて (122)

プルーストはパリの現況を綴る。社交界における男性の数が減り、ヴェルデュラン夫人もなんとかしようとするがどうにもならない。シャリュルス氏はヴェルデュラン夫人と仲たがいをしているが、社交界における評判も地に落ちている。悪癖の噂に加えてプロイセ…

失われた時を求めて (121)

ツェッペリン号のパリ空襲を天空のショーのように描写している。以下引用文。(吉川一義訳) 《それでも私たちのいたバルコニーから眺めると、夜の静寂に突如紛うかたなきお祭り騒ぎが現出したかと思われたのは、打ち上げ花火ならぬ防衛用の照明弾があがり、…

失われた時を求めて (120)

第一次世界大戦について人々がどう思っていたか、サン=ルーとプルーストの会話に現れている。以下引用文。(吉川一義訳) 《「長引くのだろうか?と私はサン=ルーに訊ねた。」「いや、ぼくはきわめて短期の戦争になると思うよ」とサン=ルーは答えたが、こ…

失われた時を求めて (119)

ヴェルデュラン夫妻のサロンの隆盛について語るプルーストだが、今は政治がらみの話題が増えてきたのだという。それに婦人のファッションも戦時色が濃くなって地味なものになったという。具体的な様子がわかる文章を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳) 《…

失われた時を求めて (118)

そのあとプルーストが療養所に入ったり第一次世界大戦が始まったりするが、この小説では時系列を追って詳しく述べられることはない。次のような少ない記述を心に留め置くしかない。以下引用文。(吉川一義訳) 《そもそもこのあいだ私は、書くことを完全にあ…

失われた時を求めて (117)

プルーストは寝る前に「ゴンクールの回想録」なるものを読む。これはヴェルデュラン夫人のサロンの様子を記したものだが文体が実在の作家ゴンクールのものになっている。無論プルーストの作であるが、文章の間が無いので読むのに一苦労する。間がない文章は…

失われた時を求めて (116)

今プルーストはロベール夫妻のことを醒めた目であれこれ評価しているが、ジルベルトの方が終わるとロベールの方に移る。ロベールは男色趣味でありながら多くの女たちと浮名を流すという、ゲルマント一族特有の行動をとるのである。プルーストの皮肉っぽい描…

失われた時を求めて (115)

第13巻に入る。田舎でジルベルトと日課のように散歩しているプルーストがいる。夕日や羊の群れを見たり昔懐かしいヴィヴォンヌ川を見ながら、ジルベルトとおしゃべりを楽しんでいる。もはやプルーストは感受性を失っており、ジルベルトの美しさも無くなって…

失われた時を求めて (114)

この二つの結婚について当人たちに起こった変化、社交界に巻き起こった噂話について得々と語るプルーストだが、そもそも過去の登場人物の縁がこのようにぴったり結ばれるものだろうか。小説の結末において作者がバタバタと行なった作為のように見える。シャ…

失われた時を求めて (113)

前回空白だったのは、編集しておいたテキストが消えてしまい、再現不可能だったからである。いつの日か書き直して空白を埋めたいと思う。 さてヴェネチア滞在中のプルーストに死んだはずのアルベルチーヌから電報が届いた。またまたミステリアスな展開である…

失われた時を求めて (112)

空白