東洋文庫 女大学集

本書は女大学関連図書のうち九篇を収録したものである。今日、女大学といえば享保元年(1716)に登場した『女大学宝箱』の本文の部分を指すことが多い。その中の本文と福沢諭吉による評論を紹介する。一部漢字表記は変更した。

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女子は、我が家に有りては、わが父母に専ら孝を行う理也。されども、夫の家にゆきては、専ら姑を我が親よりも重んじて、厚く愛しみ敬い、孝行を尽くすべし。親の方を重んじ、舅の方を軽んずる事なかれ。(略)

「女子は、我が家に養育せらるる間こそ、父母に孝行を尽くす可きなれども、他家に縁付きては、我が実の父母よりも夫の父母たる舅姑の方を親愛し、尊敬して専ら孝行す可し。仮初にも、実父母を重んじて、舅姑を軽んずる勿れ。一切万事舅姑の云うがままに従う可し」と云う。斯く無造作に書き並べて教うれば、訳もなきようなれど、是が人間の天性に於いて、出来ることか出来ぬことか、人間普通の常識常情に於いて、行われることか行われぬことか、篤と勘考す可き所なり。実際に出来ぬことを勧め行われぬことを強うるは、元々無理なる注文にして、其の無理は、遂に人をして偽りを行わしむるに至る可し。(略)

次に12のところを見る。

12
人の妻と成りては、其の家を能く保つべし。妻の行い悪敷く放埓なれば、家を破る。万事倹やかにして費えを作すべからず。衣服・飲食なども、身の分限に随い用いて、奢ること勿れ。

「 人の妻たる物が、能く家を保ち、万事倹やかにして費えを作すべからず。衣服・飲食なども、身の分限に随って奢ること勿れ。」と云う、人生家に居るの法にして甚だ宜し、大に賛成する所なれども、我輩は今一歩を進め、婦人をして経済会計の主義技術を知らしめんことを祈る者なり。(略)

流石は諭吉、現代でも通用する言辞である。