東洋文庫 F・A・ マッケンジー 朝鮮の悲劇 (1908)

  著者の F・A ・マッケンジーはカナダ生まれでロンドン・デイリー・メイル紙の記者として活躍した人物である。本書は著者が東アジア滞在中に開国前の朝鮮から20世紀初頭までの出来事をまとめたものである。朝鮮に対する並々ならぬ関心の高さが伺える。

  開国前ではジェネラル・シャーマン号事件、開国後では壬午事変、甲申事変、日清戦争閔妃謀殺について簡潔に記述し、いよいよロシアが登場してくる。ロシアはヨーロッパ最強の帝国として着々と朝鮮進出を進めていたが日本が正面から立ちはだかる事になる。本書ではロシアと日本が朝鮮支配をめぐって対立し日露が開戦したところまで記述するがいきなり1905年に飛んでいる。旅順攻略、日本海海戦の記述や海外の反応についてまるきり省略している。その後は日本の朝鮮支配の変容及び義兵闘争について詳述している。

  著者は一貫して一部日本の功績を認めるが植民地支配については批判的な態度を貫いているようだ。元々中国を日本より上、朝鮮と日本を同等と見ている感じがする。本書が省略した部分は著者にとっては納得の行かない出来事で筆が進まなかったためだろうと推測する。いずれにせよ本書は資料をまとめた様な生ぬるい成書よりも当時のジャーナリズムの生のレポートに近く、読者の想像力をかき立ててくれるような本である。