東洋文庫 絵本江戸風俗往来 (1905)

本書は四代目広重とされる菊池貴一郎(1849ー1925)による江戸の風俗を絵と文章で綴った活字本を収録したものである。木版による絵が豊富である。時代劇の絵コンテを高級にしたものという感じである。家業である火消について詳しく述べているので本文を一部紹介する。以下引用文。

町火消

この頃は江戸市中大小の火災、昼夜の別なく数度に及べり。火災起こるや、火の煙立ちあがるよと見れば、町中一丁毎に設けある火の見の半鐘を打ち鳴らし、火の遠近・方角、火災の大小をしらす。続いて火消の出るを報ずるや、四十八のいろは火消、身支度して神速に防火消火に趣く。この鳶の者たるや、猛火の中に飛び入りて働きけるまま、身の固めこそ肝要なれ。腹掛・股引に下筒袖を着し、刺子の長襦纏・同襦纏・同じくすいしという手袋、下頭巾の上に猫頭巾をかぶり、草鞋を穿くに、足袋も厚く重ねてよく刺したるを用ゆ。これ通常の身固めなり。その他は各自の好みによるなれ。》

もう一つ紹介する。

朝顔

朝顔は五月中ばより売り出し、八月前迄を限りとす。すべてこの朝顔は土焼の小鉢造り、花は紅白・瑠璃・浅黄・桃色・柿色・縁とり・しぼりの種々ありて、輪は大鉢なるもの売れよし。この鉢仕立ての朝顔は、入谷・浅草辺の古き土溝の土をとり、よく枯らしたるを鉢にいれて、種を蒔き付けて花を咲かしむるとかや、されば花に価なくして、土と鉢の価をもって商うとききぬ。毎朝未明より荷ない出し、正午前迄に売り切って帰る。朝露を含める花の姿は、短夜のねぶき眼をさましむるより、争いて需めけるなり。》