山田太一 冬構え (1985)NHKドラマスペシャル

   特急列車に乗り老紳士(笠智衆)が何処かへ向かっている。車内販売の柿ピーとビールを買う。古川駅で降りてタクシーに乗る。タクシー運転手に鳴子温泉の高級旅館まで案内してもらう。早速客室係(岸本加世子)が夕食の時間を聞きに来る。日本酒の本数と朝食の時間と洋食か和食かも聞いてくる。ここはわざとらしいが要するに案内されたのが安い部屋だったという演出である。老紳士は温泉に浸かった後散策に出かける。こけし工房を過ぎ橋を渡っていると山の端に夕日が沈むところだった。 
 
    夕食が並べられ老紳士は一人で食べ始める。団体客のカラオケが騒々しい。おもむろに客室係を呼んでチップを渡そうとするが一旦断られる。とりあえず渡すと二万円の額に驚いた客室係が戻ってくるが俺は金はいくらでもあるんだと言う。
 
    翌日は支配人がやって来て最上級の部屋に変えてくれた。眺望もいい感じだ。客室係りが挨拶すると今度は二万円くれると言う。客室係には板前の男(金田賢一)が居て二人で資金を稼いで盛岡に出ようと相談している。老紳士を社長と思っているようだ。その夜はバーで飲んで酔って部屋まで客室係に送られてきた。財布をこっそり開けて見る客室係。今度はバッグから金庫の鍵を出して金庫を開ける。すると札束がこぼれ落ちてきた。客室係は盗らずに帰って行った。   

    翌朝眺望の良いレストランで朝食をとる老紳士。今日で鳴子を立つという。タクシーが迎えに来る。走り出したタクシーを呼び止めて挨拶する客室係。一関に寄り中尊寺を観光する老紳士。紅葉のもみじを見て金色堂に寄る。今度は白山神社を参拝し老婦人とすれ違う。ナンパでもするのかという雰囲気だが毛越寺でも出くわし一緒に昼食を食べている。意気投合したようで宿も一緒に泊まる。老紳士は熊本から出てきたという。妻を亡くしたという。さて布団が並べて敷いてあるが一体どうなるのか。老婦人の方はムカついているのか同衾は勘弁してくれと言う。

    客室係と男は鳴子を飛び出して老紳士の後を追う。老紳士は宮古に着き旅館でゆっくりしている。次の日老紳士は観光船に乗り陸中海岸を観光する。足どりを掴んだ客室係はタクシーに乗っている老紳士を見つけて同じ旅館に泊まる事に成功する。老紳士が金持ちと信じている客室係に対し男の方は冷静に観察していた。靴や背広から金持ちには見えないと言う。翌日三人は八戸に到着し市内で別れる。別れ際に札束を渡して老紳士は去って行く。 
 
    老紳士は八戸に着くと昔の同僚を訪ねる。同僚は入院しておりお見舞いする。昔話をするが同僚の話がだんだん愚痴になってくる。自分は進行の遅いガンで死ねないと言う。老紳士の方は自分もボケが来て体も衰えたという。子供は三人孫は八人いるが寝込んだ時の事を思いあぐねているという。つまり死にに来たのだと言わんばかりである。貯金を全部おろして旅行に出たのだという。全部使い切るのだと言う。同僚は意図を察していかんよせと言う。老紳士は決まりごとは言わんでくれと言う。    

     恐山に到着する。死を考えている時はカンツォーネがずっと流れていて違和感がある。遺書が読み上げられ死出の旅が最終段階に入る。断崖絶壁に立ち波を見つめる老紳士。ところが足を滑らせて崖にしがみついたのだった。老紳士は怪我をしたがホテルに帰っていた。そこに客室係と男がやってくる。お金を返すと言う。老紳士は受け取るが改めて貸してやるという。老紳士が大金持ちは嘘だと言うと男は死ぬつもりではないですかと言う。老紳士は否定した。 

    男は何とかしようと真剣に考えるがやりようがない。翌日三人はバスに乗り下北半島を行く。男の実家がある田舎に到着する。ここにも愛想の悪いじいさんがいた。男は10万置いて行くからと死ぬのを止めるよう言うようにじいさんに頼む。翌日老紳士は荷物をまとめて去ろうとするがじいさんが茶を入れてくれる。じいさんは言われた通りに言うが余りにそのままなので老紳士はニコニコして聞いている。じいさんがしばらくここに居たらどうかと提案したところでドラマは終わる。偶然とはいえ意外な方向に進んだものだ。
  
    最初の場面の新幹線の車内ですごい美人の乗客が写っていたがストーリーには関係が無かった。女優のようだが一体何なのだろう。