著者はフランスに住み、アルザス地方にあるストラスブール大学で博士号を取るために休暇中にトルコ旅行をして少数民族の言語について調べるという日本人にはあまり見られない、どちらかと言うとイギリス貴族がやりそうな人生の使い方を迷い無く実行している。
内容は密度が高く、理に適った論調が所々に出てくる素晴らしいものだ。トルコ人の国民性を完璧に記述しているように思われる。 東洋文化研究所の大野盛雄氏がイラン革命について真相がわからなかったと述べたのと対照的である。
あとがきにこのような記述がある。
《わたしはふとしたことからトルコの魅力に取りつかれ、当初はトルコ語を、そして次第にトルコ国内の少数民族語を研究するようになったが、深く広く知れば知るほど迂闊に成果を発表するわけにはいかなくなる、のっぴきならぬ立場に落ち込んで行った。少数民族は十や二十ではなく、中には異民族をひた隠しにしている「隠れ民族」さえもあったのである。》
ああ外国にはシャレにならないような事態が普通にあるので下手に首を突っ込むととんでも無いことになるのだなと理解できる。
1938〜39年のデルスィムの変(トルコによるアレウィー教徒の虐殺)のことや、ザザ語、北キプロスのことなど我々に馴染みのない事情についてなかなか詳しく述べられている。