森敦 月山(2)

この本は結構分厚いので読み応えがある。これを終えたら平家物語を読んでみたくなった。

 天沼

 映画では主人公は春の訪れと共に注連寺を去っていったが、小説では友人が帰っただけで主人公はまだ残っている。天沼は雪の中を山小屋に向かって荷を運ぶじいさんに連れ添う主人公の話である。じいさんの話を聞きながら主人公があれこれと思うのだが、素直な感想ばかりであり、主人公はこの郷に一体となって郷の実態を写し取っているかのようである。

 鳥海山

初桑瓜  今度は旅日記のようになっている。主人公は鳥海山の麓にある吹浦に足を伸ばした後、酒田の鎧屋に泊まるが、同宿の行商人の会話を聞き耳を立てて写し取っている。一人は富山の薬売りで、もう一人は燕三条の食器売りである。このような商人は半分俗物だが人はいい。汽車に乗って吹浦に帰る車窓に夕陽に照らされた鳥海山を見るのである。

鷗  今度は私即ち主人公は妻と吹浦に住んでおり、友人のSが訪ねてくるのである。ふらっと現れたSは夫婦のもてなしを受ける。鄙びた鉱泉に浸かり、沖に見える飛島を眺め、松ぼっくりを拾って遊ぶ。肝心の鳥海山は見えるような見えないような状況である。なかなか知的な会話が取り交わされ、Sは帰ってゆく。 Sの会社は倒産し、債権者会議が行われるという。心に重いものを抱いた旅だったのである。