2020年プリアンプ (35)

 LH0032を手作りしたものが完成した。

 Serial No. 00023~0024

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   動作確認とオフセット調節

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   測定も行なった。極めて低歪みである。初段FET(K117と同チップ)のせいかも知れない。

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  プリアンプ  I にはこの様に搭載する。狭い基板を立体的に使う。

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  音はプリアンプとしてはしっとりとした、明快なものでリファレンスになりうる印象だ。

 

 

 

 

 

失われた時を求めて (117)

プルーストは寝る前に「ゴンクールの回想録」なるものを読む。これはヴェルデュラン夫人のサロンの様子を記したものだが文体が実在の作家ゴンクールのものになっている。無論プルーストの作であるが、文章の間が無いので読むのに一苦労する。間がない文章は心がない文章と言って良い。一部を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《「ひとりの作家がこれほど深く女性の内面に参入できるとは、みなさまのような西欧のかたには理解できないかもしれません」と結論めかして言う大公妃は、なるほどすぐれて聡明な女人という印象を私に与えた。給仕頭よろしく唇の周囲と顎の髭を剃って頬髭をたくわえた男がひとり、聖シャルルマーニュ祭のために選ばれた親しき優等生らと、第二級担当教師のごとき恩着せがましい口調にて冗談を連発、これブリショなる大学教師なり。》

この長くて読みにくい文章の後でプルーストは自身の観察眼について述べている。

《というわけで人びとの引き写すことのできる表面的な魅力に目をとめる能力を欠くせいで、私がその魅力に気づかないのは、外科医が女性のなめらかな腹の表面には目もくれず、その腹の内部に巣食う病変に目を凝らすのに似る。私がいくらよその晩餐会に出席しても会食者たちをよく見ていなかったのは、会食者たちを見つめているつもりで、じつは会食者たちにレントゲンを照射していたからである。
その結果、ある晩餐会における会食者たちについて私が気づいたことを残らず集めてみても、私の描くさまざまな輪郭は、心理的な諸方則の全体像をあらわすのが主眼となり、ある会食者が自分の発言に込めていた固有の関心などがはいり込む余地はない。》

 

東洋文庫 アメリカ彦蔵自伝 1 (1892)

イギリスのテレビ局に倣い「播磨国7歳になりました」風に書く。人は7歳までに作られるという伝の検証である。

彦太郎、1837年に今の兵庫県播磨町に生誕する。幼少時に父が病死し継父に育てられる。この時浜田町に移り寺子屋に通っていた。(後年浜田彦蔵と名乗ることになる。)この年、従兄の船で金比羅参りをした。彦太郎の兄は16歳で船乗りに弟子入りし二等航海士として活躍している。彦太郎も将来は船乗りになる事を希望していた。母は反対はしなかったが、辛い船乗りより兵庫の商館に入って商業の道を進むよう勧めている。

14歳 前年に母が死去し浜田町にいる理由もなくなったので継父と住吉丸で江戸に向かう。熊野で栄力丸に乗り換え江戸を見物したが伊勢方面へ向かう途中遠州灘で遭難。漂流後アメリカの船オークランド号に救助され翌年サンフランシスコに着く。翌年軍艦セント・メリーに乗りハワイ、香港と進んだが結局サンフランシスコに戻り就職する。

21歳 ボルチモア帰化し市民権を得る。測量船の書記としてクーパー号に乗り太平洋に出航する。翌年日本に上陸し兄と会う。23歳のとき横浜で貿易商社を開く。

35歳 大蔵省会計局に職を得る。マリア・ルース号事件の通訳を務めた。

40歳 このころ松本銀子と結婚

55歳 自伝が英文で刊行される(1892)

60歳 死去

これを見ると7歳までに彦太郎は船乗りになりたいという願望を持ち、母から商館員になる事を吹き込まれている。あとは遭難というアクシデントと米国での教育が彼の能力を倍増させたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

失われた時を求めて (116)

プルーストはロベール夫妻のことを醒めた目であれこれ評価しているが、ジルベルトの方が終わるとロベールの方に移る。ロベールは男色趣味でありながら多くの女たちと浮名を流すという、ゲルマント一族特有の行動をとるのである。プルーストの皮肉っぽい描写を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《たとえばロベール・ド・サン=ルーが私の居合わせた夜会に入ってくるときには、いくぶん薄くなった髪の黄金色の冠毛の下にある顔をまるで絹のように艶やかに、誇らしげに昂然ともたげ、首を人間のものとは思えないほどしなやかに、誇り高く、思わせぶりに動かすので、そのすがたにかき立てられたなかば社交的なかば動物学的な好奇心と感嘆の念を前に、人びとは自分が、フォーブール・サン=ジェルマンにいるのか、それともパリ植物園内の動物園にいるのか、眺めているのは大貴族がサロンを横切るすがたなのか、それとも鳥がケージの中を歩くすがたなのか、といぶかる始末だった。》

ジルベルトとプルーストの虚々実々な会話。

《「それは勘違いですよ、私の知り合いに、愛されている男からほんとうに監禁された女性がいますからね。だれにも会えず、男の忠実な召使いといっしょでなければ外出できなかったとか。」「あらまあ、やさしいあなたをぞっとさせるようなお話ね。そうそう、ちょうどロベールと話し合っていたところなの、あなたも結婚なさるべきだって。奥さまはあなたを丈夫にしてくださるでしょうし、あなたは奥さまを幸せにできるわ。」「とんでもない、私は性格がよくないものですから。」「まあ、なんてことを!」「いや、そうなんです!もっとも婚約したことはあるのですが、結婚する決心がつかなかったのです(相手の女性も自分からあきらめました。)、優柔不断のうえに口うるさい私の性格のせいです。」私は実際、アルベルチーヌとの情事をこのような単純きわまる形で総括していた。》

 

2020年プリアンプ (34)

  早速ゲルマニウムアンプ基板をプリアンプ I に組み込んだ。DCサーボのおかげで調整なしで済む。

 

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エージングなしでいい音がする。無味無臭であり、あらゆる観点からしてもいい音だ。この癖のなさはDual gate MOSに通じるものがある。これは長く聴いていたい。

 

 

 

Serial No. 00021 トラブルシューティング

Serial No. 00022 の組み立て・調整が完了したので、Serial No. 00021 の方を見ると調整不能となっている。一度特性を取った機なのでその後故障したと考えられる。

 配線は問題ないはずで、抵抗、CRDは飛ぶことはないと考えられる。TRが生きているかチェックすることにした。

 リードを二本外してチェッカーで見て行くと4番目で反応が出た。レポートが面白いので書いておく。

 NPN Germanium BJT

Red-E Green-C Blue-B

Hfe=7

of Ic=5.01mA

Vbe=0.348V

of Ib=5.00mA

IcLeak=0.029mA

Rshunt=32767Ω

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 TRを新品と交換して復帰した。

 

 

 

 

失われた時を求めて (115)

第13巻に入る。田舎でジルベルトと日課のように散歩しているプルーストがいる。夕日や羊の群れを見たり昔懐かしいヴィヴォンヌ川を見ながら、ジルベルトとおしゃべりを楽しんでいる。もはやプルーストは感受性を失っており、ジルベルトの美しさも無くなっていた。ここはタンソンヴィルという田舎でコンブレーのそばにあり、ジルベルトの夫ロベールの邸宅があるところである。プルーストはそこの一室に滞在している。

ジルベルトとのおしゃべりの中で昔の決定的な場面についての種明かしがされる。ジルベルト本人が語っているので間違いないのであろう。実はジルベルトの方がプルーストに一目惚れしており、無礼と思われた態度は気をひくためのものだったという。プルーストが奥手だったということだ。本文を少し紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《男の子たちとルーサンヴィルの天守閣の廃墟へ遊びに行っていたの。きっとしつけの悪い娘だとおっしゃるでしょうけれど、その廃墟のなかにいろいんな女の子や男の子が集まって、暗がりでいたずらをしていたの。(略)わたしはひとりで外出するのを許されていたので、家を抜け出せると、すぐにあそこへ駆けつけたものよ。あなたに来てもらいたいってどれほど願ったことか、とても口では言えないわ。よく憶えているけど、わたしの願いをあなたにわかってもらおうとしたって時間はわずかでしょ、で、あなたのご両親やうちの両親に見つかるのは覚悟のうえで、ずいぶん露骨な形であなたに合図を送ったの、いま思うと恥ずかしいくらい。でも、あなたはひどく意地悪な目でわたしを睨みつけたので、ああ、その気がないんだなって悟ったの。》