映画 バビロンの陽光 (2011)

   ナショナル・ジオグラフィックに出てきそうな砂漠の風景の中を一人の老女が歩いている。ここはイラク北部の砂漠で孫のムハメッドと二人で1000km先のナシリアへ行こうとしている。ヒッチハイクするつもりだが大型トラックは簡単には止まってくれない。なんとか小型トラックにバクダッドまで有料で乗せてもらうことになる。イラクの道路はインフラは少しはあるがサダム・フセインが倒れた直後なのでこれから荒れてゆくのだろう。トラックは米軍の検問に出くわした。  
 
     運転手の男はおしゃべりでしょっちゅう歌を歌っている。バクダッドに着くとまだ街は混乱の中にあった。二人はバスターミナルで降ろしてもらう。運転手はお金を返してくれた。バスの待合でナンを頬張るムハメッドはメモを暗唱する。父親はナシリア刑務所に入れられているらしい。祖母がうたたねをしている内にムハメッドが消えた。祖母はクルド語で叫びながらムハメッドを探す。ムハメッドは近くにいた。タバコ売りの手伝いをしていたようだ。やっとバスに乗ることができた。二人ともたくましい。 

    乗客たちは途中の町で降ろされた。これから先は治安が悪いと言う。銃声がして民兵のトラックが現れる。米軍のヘリも飛んでいる。町は廃墟になっている。ムハメッドは誰もいなくなった警察署の中を見て回る。バスの一行は船に乗りナシリアへ行こうとしていた。船を降りムハメッドは祖母の持ってきた服に着替えとてもきちんとした身なりで面会に臨む。受付で父の名を言うがその名は集団墓地の方にあると言われる。12年の間に父は死んでいたのだ。祖母は我が子を失いムハメッドは父を失った。バース党の圧政のためのようだ。

   帰りのバスも大混雑だが二人は意気消沈している。中年男のムサが話しかけてきてオレンジをくれる。ムハメッドはアラビア語が出来るので何かと便利だ。途中でバスが故障する。ムハメッドは医者か音楽家になれと言われているが本人は兵士になると言っている。笛の方は上手でないようだ。ムサは共和国防衛軍にいたと言う。命令で村を襲い人を殺したと言う。祖母はムサを毛嫌いする。

   農村部を歩きモスクを訪ねる。ここに顔の崩れた病気の男が移送されていると言う。ムサが何処からか聞いて知ったと言う。たっての願いで祖母が会わせて貰える事になった。どうやら人違いのようだ。集団墓地へ行くかどうか迷う。
 
    ムハメッドはバビロンの空中庭園を観光して行きたいという。今も有ると信じているようだ。車に積まれた遺体の列が通り過ぎる。祖母は荒れ野に立ち地平線を見つめる。ムハメッドにやっぱり父さんを連れて帰ろうという。集団墓地では遺体が掘り出されて確認作業が行なわれていた。父は埋葬されて無かったが他にも集団墓地がある。ムサと別れてそちらへ向う。

    集団墓地と言うより大量虐殺され埋められた場所のようだ。一ヶ所見終わって次の場所へ向かう途中で祖母は亡くなった。 ちょうどバビロンの遺跡を通り過ぎた時である。