失われた時を求めて (58)

霧の中ロベールとレストランに行くプルースト。店主にゴミクズのように扱われたプルーストはショックを受け、また長い評論が始まる。若い貴族について、ユダヤ人について、フランス人の上流と庶民について縷々述べられる。結論めいた章句が出現した。以下引用文。(吉川一義訳)

《知的で道徳的な美点というだけなら、たしかに外国人にも備わっていて、はじめは嫌われ顰蹙を買い、嘲笑されるという段階を経なければならないが、その美点が貴重なものであることに変わりはない。しかし公正に判断して美しいもの、頭と心で評価して価値あるものが、まず見た目にも魅力をたたえ、優雅な色合いと端正に彫琢された形をそなえ、素材と形のなかに内面の完璧さを実現しているこのはやはり心踊ることで、それはひとえにフランス人にのみ見出される美点なのかもしれない。》

これが真理だとすると外国人、特にアジア人は嘲笑される覚悟があり、それを乗り越える力のある者のみフランス社会に入れということになる。今でもおそらくそうである。

特別待遇されていたロベールが合流すると店主の態度は豹変し、プルーストの事を男爵さまと呼ぶようになる。このあとのたっぷりとした時間、モロッコをめぐるドイツとの対立など、突っ込んだ内容を含む親しい会話がなされた。この日のロベールとの差し向かいの席はプルーストの記憶に残るエピソードとなったのである。