東洋文庫 イザベラ・バード 中国奥地紀行 (1899)

  序文にはそう書いていないが王立地理学協会会員のバード女史は大英帝国に命ぜられた特殊任務を遂行したのだと思う。 本書では上海から始まって長江を遡り各都市の発展の様子特に宣教師の活動の現況を報告している。大英帝国の中国における権益を常に念頭に置いているらしくフランスや日本の活動には警戒感を露わにしている。この旅行記は1896年から1897年の清国末期の様子を写し出したものだが1981年のさだまさしドキュメンタリー映画長江と重なる部分がかなりある。

  本書にはバード女史が自ら撮影した写真が随所に掲載されているが文章による描写が主体でありなかなか達者な文章と言える。いくつか例を挙げてみる。

  上海到着
太平洋の深みのあるすばらしい青色は、港に着く何時間も前から、黄海という表現がぴったりする黄色く濁った色へと次第に変化していった。

この映像は映画長江で見ることができる。さらに映画ではプロテスタントの誇る大聖堂(聖三一教会)もきれいに復元されて写っていた。長江を少し遡るとジャンクの姿も見られる。

  宜昌(ぎしょう)を過ぎると長江も上流となり渓谷を行くことになる。

  張飛
雲陽はすばらしい峡谷の河畔に位置し、その灰色の城壁は、町が立地する斜面の背後の山地に向かってずっと続いている。しかしこの町の誇りになっているのは、対岸の崖に建つ張飛廟である。辺り一面美しい景色が展開する。その絵のような美しさは、自然と芸術との見事な融合の賜物である。寺院には、中庭が三つ、三層の建物が一つ、二層の建物が二つありその反りのきつい屋根には、最高に美しい緑釉瓦が葺かれている。

  張飛廟は今は三峡ダムによる水位上昇の為移築されてしまっている。水没前の映像はちゃんと映画長江に写っている。だがこれ自体も1870年の大洪水の時流されて再建されたものだという。

 

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  バード女史が見てから84年後の姿。