前略おふくろ様 II 第10回 (1976)

あれから母親のことが頭から離れないサブである。川波の何時もの慌ただしい板場の風景。その夜トラブルが持ち上がる。ヤクザの高級車が店の前に止まっている。客に呼ばれて秀次が座敷に顔を出すと昔の仲間が久しぶりと言う。半分足を洗ったと言うがヤクザである。サブの件で脅して帰って行った。いや冗談だよと言うが因縁をつけて店から金を巻き上げる魂胆かもしれない。客が予約して行った20日は手違いでダブルブッキングとなった。

サブが女将に呼ばれて行くと浮気相手に電話をかけさせられる。証券会社の片島ですと言い相手の男を電話口に呼ぶ。母から手紙が届く。地元の未亡人の女性を急遽紹介するとある。早くも訪ねて来てサブと面会する。店に話してないサブはとんでもない板挟みになった。秀次に相談し間に入ってもらう。女将さんは突如上機嫌になり雇ってくれる事になった。秀次が女将さんの顔を立ててヤクザの方をキャンセルしたのである。その代わりサブは向こう板に降格となる。とばっちりで政吉も修の下になる。元はと言えば女将さんの勘違いが生んだトラブルである。

問題の20日は板場が荒れる。修に政吉が歯向い、ヤクザが秀次に因縁をつけにやって来て、女将が押さえておいた萩の間の客は来ず空注文となった。

映画 レッド・バロン (2008)

第一次世界大戦時のドイツのエースパイロット、リヒトホーフェンの伝記映画である。少年期のエピソードの後ドイツ空軍の若き精鋭となったリヒトホーフェンの活躍が描かれる。彼は貴族出身らしく狩のように楽しみながら空中戦を行う。戦場では機体を赤く塗りレッド・バロンとして敵に恐れられる。エンターテイメント的要素として野戦病院のナースとの恋があり負傷してからの人間的成長も描かれる。だが戦況は劣勢になって行きさすがのレッド・バロンもとうとう戦死する。

この映画は同工異曲の零戦燃ゆ1984)よりも大人っぽくリアルに作られていると思うが戦争なのにフェミニズムヒューマニズムの味付けがなされているのには少々辟易する。ドイツ皇帝フリードリヒ・ヴィルヘルム二世、ベルリンの街、華々しい空中戦の再現映像はなかなか良かった。また第一次世界大戦の知られざる一面も僅かだが描いてある気がした。

東洋文庫 海游録 申維翰(1719)

徳川幕府八代将軍徳川吉宗の襲位を賀していわゆる朝鮮通信使一行475名が訪日する。その時の製述官が申維翰である。日記形式の記録で漢文で書かれている。

一行はソウルを1719年4月11日に出発し13日釜山に到着する。5月18日出航、南風に阻まれて絶影島に停泊。再び出航できたのは6月20日のことであった。夕刻佐須浦に到着、夜上陸し館に入る。食事には葱、芹、青菜、豆腐、鮮魚が出されている。高官である著者は村の貧しい様を嘲笑している。海路を経て6月27日に対馬藩の府中に到着する。一行は西山寺に宿泊し饗応を受ける。6月30日になって府中に参内する事になる。藩主に謁見する段になって著者は気色ばみこの島中は朝鮮の一州県に過ぎないと言い始める。大トラブルが予想されたが著者は謁見せずに西山寺に帰っていった。

7月19日壱岐に向かって出航する。強い追い風のせいで4時間ほどで島に到着する。松浦篤信が著者を訪ね来ると一転して上機嫌で談笑する。酒を酌み交わし琴の音を楽しんだ。8月18日に下関に到着する。此処は西海道の入り口であり防御も堅固である。ここには5日ほど滞在し瀬戸内の海路を進んで行く。9月4日大坂に着く。西本願寺に宿泊し夜は饗宴を開く。5日間滞在した後、陸路を行き京都に至り本能寺に到着する。東寺を過ぎてからは街並みが絢爛豪華になり著者はその様に幻惑される。

9月12日京都を立つ。三条大橋を渡り大津に至る。以後琵琶湖を過ぎ東海道を進んで行く。9月27日江戸城に到着。10月15日江戸を立ち今来た道を戻って翌年1月24日にソウルに到着した。

吉田秀和 名曲のたのしみ 2011年12月24日放送分

試聴室の日。今日はリストの生誕200年を記念して20世紀から今日に至るピアノの名手によるリストの作品の演奏を聴いて見ましょう。まずアルトゥール・ルビンシュタインのピアノ独奏でリストのピアノコンチェルト第1番変ホ長調これを聴こうと思います。ルビンシュタインはポーランド出身のピアニスト。ホロビッツと並んで天下を二分したような格好で20世紀の前半のピアノ演奏の歩みの上で大変に人気のあった人達だ。僕の考えでは(ルビンシュタインは)ショパンよりもむしろリストの方が向いていたんじゃ無いかと思う時もあります。アルトゥール・ルビンシュタイン、RCAビクター交響楽団、アルフレッド・ウォレンシュタインの指揮といった顔ぶれによる演奏で聴きましょう。〜音楽〜

今聴いたのは云々。今度は今申し上げたそのルビンシュタインと並び立つ巨匠ホロビッツ、彼のピアノ独奏でリストのピアノソナタロ短調これを聴こうと思います。ピアノの名人の作ったソナタの中でも特に記念碑的な大きさといい内容といい立派な曲です。1949年カーネギーホールでリサイタルを開いた時のライブのレコードです。〜音楽〜

仲々貴重な音源。ホロビッツの神髄が記録されている。

今聴いたのは云々。今度は今生きている世代の代表としてエフゲニー・キーシン、ロシア生まれの神童ですね。と言ってももうそろそろ40になっている。超絶技巧的練習曲この中から雪かきというのと鬼火というのと二曲続けて聴きましょう。〜音楽〜

今聴いたのは云々。今日はリストの生誕200年記念として云々を聴きました

苦海浄土全三部(2016)

昨年は石牟礼道子苦海浄土全三部を図書館で見かけて借り出し読んでみた。有明海で暮らす漁師達ののどかで活力に溢れ幸せだった頃の描写が純文学として成立するレベルである事に驚いた。いやちょっと現実はそこそこ厳しいものがありそこまで天国かなという疑問も生じたのであるが、彼らが地獄に叩き落とされてからの現状の乾いた描写と対比して見る効果も有るのだろう。二週間ではとても読みきれず短文にまとめる事も出来なかったが彼女の仕事はスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのそれに匹敵するものだと確信した。

事件そのものは和解が成立したので裁判による真相の解明、責任の所在の追及は為されずに風化して行った。ドキュメンタリー作品ではみなまた日記 甦る魂を訪ねて (1996)というのを見た。枯れた感じの静かなドキュメンタリーだったが胎児性水俣病の人達がワークショップに登場する。まだ若い人たちである。

吉田秀和 名曲のたのしみ 2012年1月21日放送分

ラフマニノフその音楽と生涯の12回目にあたりますけども。今までもお話ししてまいりましたようにラフマニノフは云々。ピアノ独奏用の小品もたくさん書いています。中でも前奏曲と呼ばれるものが全部で24曲あります。作品23の前奏曲集というのは特に有名なものでありますので今日はそれを聴きましょう。リヒテルの演奏で1番、2番、4番この3曲続けて聴きましょう。〜音楽〜

今度は第5番、第7番、第8番この3曲をまたリヒテルの演奏で続けて聴きましょう。〜音楽〜

リヒテルの演奏で3曲聴きましたけどあと残りの4曲、第3番、第6番、第9番、第10番、これはアシュケナージのソロで聴きましょう。〜音楽〜

 何故こうなっているかというとリヒテルの盤は名盤だが残念ながら歯抜けになっているのである。アシュケナージの方は24曲入っている。

ラフマニノフ前奏曲で一番有名なのは5つの幻想曲の中の第2曲のものがありまして、ラフマニノフが19歳の時の作品なんですが云々。これ一つ作曲家の自作自演の形で弾いたものがありますので聴くことに致しましょう。作品3の2嬰ハ短調レント。〜音楽〜

今聴いたのは云々。この次はまた独唱歌曲を聴きましょう。作品14、これは12曲の歌が入っているんですけども、第1曲私はあなたを待っている、第2曲小島、第3曲昔から恋の中にはこの3曲をまずまとめて聴きましょう。エリザベート・ゼーダーシュトレーム のソプラノの独唱にヴラディーミル・アシュケナージのピアノの伴奏が付きます。〜音楽〜

この次は次の3曲、第4番目私は彼女の元へ行った、第5番目この夏の夜、6番あなたは皆に愛されて、この3曲ほいじゃまたさっきと同じゼーダーシュトレーム のソプラノの独唱とアシュケナージのピアノの伴奏で聴きましょう。〜音楽〜

第7曲目、友よ私の音葉を信じないで。〜音楽〜

今聴いたのは云々。今日はその前に云々。そいじゃまたさよなら。

名曲のたのしみ、お話は吉田秀和さんでした。

前略おふくろ様 II 第9回 (1976)

海ちゃんが川波で働きだしてからお皿が7枚割れたという。年末になりサブにもボーナスが出る。サブは母に手紙を書きボーナスから三万円送金する。

同伴喫茶に行ってからユミから電話が来るようになる。サブが居留守を使うのでユミは遊びに来て川波の電話からサブにかけて来る。このラブコールにサブは返答に窮するがロッキード事件小佐野賢治のような答弁で切り抜けた。その後東京に出て来た兄から会おうと電話がある。

その夜赤提灯で兄が待っていた。母の事で話があるという。しばらく母を預かってくれないかと言う。母が兄弟間でたらい回しになっている事を知ったサブは気色ばむ。兄達の事をなじり俺が引き取るよという。おしゃべりの利夫が現れて雰囲気が悪くなったところで兄が帰る。サブが追いかけて兄さん達は人間のクズだと言う。兄はサブをぶん殴る。その後サブはコテンパンにやられた。兄はこの半年の出来事を話し出す。母は大学病院に入院し兄弟達が付き添っていたのだと言う。検査では特に悪くなかったらしい。

雨の中サブが番傘をさして夜道を帰って行く。その日からサブの頭は母のことでいっぱいになる。半妻がシューベルトで待っていると言う。行ってみると痔が悪化しているようだ。テレビの真空管を抜いていたのもバレたようだ。利夫の言う通り姑を引き取って四苦八苦しているらしい。母を引き取る話をすると半妻は優しく諭すような口ぶりになった。

秀さんに相談するとお金のことはなんとかしてくれると言う。かすみちゃんが店を辞める事になり今夜シューベルトで待っていると言う。だがサブはすっぽかした。形式通りにきっちりやりたい女性、実質本位で面倒から逃避したい男性の性質がここには現れている。かすみちゃんは翌朝旅立って行った。

サブはアパートに帰って半妻に言われた通り人手が足りないから東京に来てくれないかとやさしく母に手紙を書く。ところが数日経って母の紹介で山形から仲居さんがやって来た。シュールな笑いがこみ上げて来る場面である。