失われた時を求めて (19)

ゲルマントのほうへの散歩は少々大変で、雲一つない天気でないと心配だった。それでも出かけて広大な牧草地と塔の跡を見ると、中世の諸侯達の戦いの情景が浮かんでくるのだった。ヴィヴォンヌ川を辿って行くと睡蓮の花園に至る。そこはお屋敷の一部で水に浮かぶ花壇のようでありプルーストの想像力をいたく刺激する。水辺に腰を下ろし果物やパン、チョコレートを食べる。水辺には水仙が咲いている。

ぼつんと立っている別荘にはベールをつけた傷心の婦人が人目を避けて住んでいる。自分を傷つけた不実の男の目に決して触れないよう、ひっそりと暮らしている。想像をたくましくしたプルーストにはそう見えているのだ。

一度もたどり着いた事のないこの散歩の終点には、ヴィヴォンヌ川の水源とゲルマント公爵の城館があるという事をプルーストは知っていた。