失われた時を求めて (39)

フランソワーズが調子に乗って活躍する。アパルトマンの七階を根城としその広い情報網でプルーストに情報をもたらす一方、従僕とのやり取りが喜劇じみている。まるでシェークスピアの戯曲のような書き方を試行しているかのようである。プルーストは冷静にフランソワーズの言葉使いの誤りを指摘してゆく。その結果プルーストのゲルマント崇拝に翳りが生じたが、ある日ついに輝かしい結論に達したのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《父の旧友のひとりが公爵夫人について私たちにこう言った、「あのかたはフォーヴール・サン=ジェルマンで最高の地位を占めるかたですよ、フォーヴール・サン=ジェルマン随一の名家です。」》

実際にはいくつかの点においてプルーストはすでに失望を感じていた。それはゲルマント公爵夫人の容貌だったり、館の 玄関マットだったりするのだが、まだ見ぬサロンと夫人の友人について妄想を膨らませるのであった。その妄想の一部を紹介しよう。以下引用文。(吉川一義訳)

《親しい人たちだけの集まりを催すときでも、ゲルマント夫人が会食者に選ぶことのできるのはそんな人たちだけで、用意の整ったテーブルのまわりに十二人がつどう晩餐では、会食者はサント=シャペルの黄金の十二使徒像よろしく「聖体拝領台」を前に十字架をささげる象徴的な大黒柱となるであろう。》