失われた時を求めて (70)

前回の逗留と同じくフランソワーズが使用人として上階の部屋に泊まり、隣の部屋には母がいるという状況である。そしてアルベルチーヌがいつでもやって来てプルーストの欲望を満たしてくれるのである。だがアルベルチーヌに対する疑惑がだんだん現実のものとなる。

一つはカジノへの誘いを断ったプルーストがたまたまコタール医師とともにカジノを訪れた時見た光景である。アルベルチーヌとアンドレが密着して踊っていたのである。もう一つは遊びに来たアルベルチーヌが帰ると言うのをプルーストが引き止めた時の彼女の反応である。帰るという理由に矛盾が生じているのである。あれこれ言い合うが結局プルーストが譲歩し、意地悪をされたと感じたアルベルチーヌは「さようなら、永久に」と言って出て行った。だがこの言葉もその場だけのもので、すぐよりを戻している。

アルベルチーヌの人格についてのプルーストの後付けの結論である。以下引用文。(吉川一義訳)

《結局いまになって思い返してみると、私が少しづつアルベルチーヌの性格の全体像をつくりあげ、私には完全に統御できないひとりの女の生涯の各時期について痛ましい解釈をしたときの仮説とは、畢竟、私が聞かされていたスワン夫人の性格の想い出であり、その固定観念であった。》