失われた時を求めて (71)

《ある日、私たちがグランドホテルの前の堤防上に集まっていた時、》

第8巻の最後の重要場面である。カンブルメール若公爵夫人(ルグランダン氏の妹)との初の交流が実現する。プルーストと居たのはアルベルチーヌ、アンドレ、ロズモンドで、やって来たのはカンブルメール老公爵夫人、カンブルメール若公爵夫人、それに裁判所長が加わる。

《するとそのとき、私たちのいた堤防と直角に交わる丁字路へ、二頭の馬を小走りにしてカンブルメール夫人の幌付四輪馬車が進んでくるのが見えた。》

この時の交流でプルーストは老公爵夫人にたいそう気に入られる。詩的な言葉による会話、美術・音楽における博識を披露した結果である。若公爵夫人はドビュッシーを高く評価する程の音楽好きであり、老公爵夫人はショパンの弟子の生き残りで、プルーストとは比べるべくも無い達人なのである。美術の話題では若公爵夫人に真っ向から議論を挑んだが、老公爵夫人にはお追従のような言葉で取り入ったのである。最後に裁判所長がこう言った。

《まあ、あなたも私の年齢になれば、くだらんものだってわかりますよ、社交界なんて。で、後悔しますよ、こんなくだらんものを重視していたのかってね。さあて、夕食前にちょいと散歩でもするとしよう。》

これで長かった第8巻を終えて第9巻に入る。