プルーストが次なる手段としてアルベルチーヌへ書いた手紙は、その内容たるや嘘が満載で本音と真逆の事が書かれており、本当に出しちゃうのかと思ってしまうがフランソワーズを呼んで出しに行かせるのである。続いてコントのようなやり取りが登場する。以下引用文。(吉川一義訳)
《「あら、旦那さま、アルベルチーヌさまが指輪を持っていくのをお忘れですよ、引き出しのなかに残っています。」私はとっさにこう口走った、「そりゃ送ってやらなくては。」しかしこれではアルベルチーヌが帰ってくるのは確かでないように聞こえてしまう。「うむ」と一瞬の沈黙のあと、私は答えた、「留守はほんのしばらくのことだから、送るまでもなかろう。どれ、渡しなさい、見てやろう。」》
まあフランソワーズにはとっくに見破れているのだが。
その後プルーストはアンドレに手紙を書き、ロベールからの報告を聞く。いよいよ万策尽きたのか電報を打った。
《私はアルベルチーヌにたいするいっさいの自尊心をかなぐり捨てて自暴自棄の電報を書き、どんな条件でも呑むから戻ってきてほしい、ただ週に三回、寝る前に一分だけ接吻させてほしいと送りつけた。》
それと入れ違いにボンタン夫人から届いた電報はなんともミステリアスなものだった。
《「お気の毒ですが、わたしたちのかわいいアルベルチーヌはもうこの世にはおりません。このような恐ろしいことを、あの子を愛してくださっていたあなたにお知らせするのをどうかお赦しください。アルベルチーヌは散歩の途中、乗っていた馬から投げだされ、木に激突しました。あらゆる手を尽くしましたが、あの子を蘇生させるには至りませんでした。あの子の代わりにどうして私が死ななかったのでしょう。」》
もっとミステリアスなのはこの後にフランソワーズが持ってきたアルベルチーヌからの手紙である。
《「あなたの家に戻るには、もう遅すぎるでしょうか?まだアンドレに手紙を書いていらっしゃらないようなら、もう一度あたしをそばに置いていただけませんか?あなたの決定に従います、できるだけ早くお知らせください、あなたの決定をあたしがどれほど待ちきれない思いでいるかお察しください。戻ってもいいのでしたら、すぐ汽車に乗ります。心からあなたの、アルベルチーヌより。」》