東洋文庫 ヴェトナム亡国史(1905)

歴史の一場面を紹介する。

《客はまたこうも言った。

「過ぎたことを申しても仕方がありません。ーーただ、もしフランス人が人民の知識をひろめ民力を養うことに努め、わがヴェトナムのために、積年にわたって腐敗した政治や教育を一掃し、国民が自ら気力を奮い起こす余地を残したならば、百年ののちに英雄が現れて立ちあがり、祖国を回復しても決して遅すぎはしません。しかし実際には、フランス人はヴェトナム人を苦しめ、愚かならしめているのを、いったいどうすればよいのでしょうか。ああ、あと四年たてばヴェトナム人は半分が死んでしまい、さらに十余年ののちにはヴェトナム人の子孫は根だやしになっているでしょう。これは決して思いすごしではありません。彼らは、一つの民族を絶滅することに何の心の痛みも感じないのです」》

客は本書の著者潘佩珠で、聞き手は梁啓超で、場所は横浜のとある酒楼である。