東洋文庫 ハジババの冒険 ジェイムズ・モーリア著(1824)

  イスファハンの床屋の子として生まれた主人公のハジババは技能と読み書きを身に付けたのちトルコの商人アガーに助手として雇われる。隊商を組んでホラサーン州のマシュハッドへ向かう途中トルクメン人の盗賊に襲われ主人共々捕虜になる。塩の砂漠と山を越えた処の草原には黒いテントが張られていてトルクメン人の野営地になっていた。ここで捕虜は奴隷として労働させられるがハジババは床屋の技能が認められ頭領の側近として仕える立場になる。

  今度は盗賊たちはイスファハンを襲撃する事になり案内役としてハジババも参加する。闇に紛れて隊商宿を略奪し捕虜を三人拉致する事に成功する。金持ちの商人を捕まえたつもりが取り調べてみると人質は詩人、法官、召使いだった。詩人のアスキャルが真っ先に殺されそうになるとハジババが擁護に回り詩を作らせてお金に変えることになった。話を聞いてみるとアスキャルは何と王に仕える詩聖でライラとマジュヌーンの恋物語も書いたと言う。ハジババは助ける事を約束してその機会を待つことになる。

  今度はマシュハッド街道の砂漠の入り口で隊商を待ち伏せして襲うことになる。ところがやってきたのはホラサーン州に向かう武装した王子の一行で盗賊たちは逃げるがハジババは逃げ遅れて捕虜となる。トルクメン人達とは違う外見が幸いして斬首を免れたハジババはマシュハッドに着くと今度は水売りの商売を始める。これでかなりの成功を収めたが腰を痛めた為に煙草屋に商売替えをする。商いをする内に行者サファルと親しくなったハジババは今度は行者になるよう勧められる。行者と言っても実態は人々の欲望につけ込んだペテン師である。

  粗悪なタバコを売っていたことがバレたハジババは鞭打ちの刑を受ける。結局ハジババは行者の姿になりサファルらとマシュハッドを去る事になる。途中腰痛のためサファルらと別れ一人でテヘランを目指す。テヘランに着いたハジババは古着屋で買った高い服を着て身なりを整え就職活動を始める。幸い詩聖のアスキャルが帰還して来たので彼の元に日参しとうとう侍医の召使いの仕事を紹介してもらう。読み書きのできるハジババは上手くやって刑務次官補佐に昇格する。(第1巻終)

  解説によるとこの話は19世紀初頭のカージャール朝の頃を時代背景とした創作であると言う。その頃イランはテヘランに都を置きグルジアを支配し領土を拡張、隣のアフガニスタンとは仲が悪く、イギリスやフランスと接近しロシアと対抗するがロシアとの戦争では敗れている。西欧列強とは不平等条約を結ぶという試練の時代だった。著者のジェイムズ・モーリアは6年余りイギリス人外交官としてイランに滞在した。

  第二巻ではハジババがグルジア、バクダッド、イスタンブールへと旅をする。ハジババの冒険はイラン民族誌ともイラン版千一夜物語とも位置づけられており読んでおくと歴史の理解に役立つと思う。

 著者による挿絵が割と豊富にある。