岩波文庫 ユグルタ戦争 カティリーナの陰謀 (4)

もう一人の息子アドヘルバルは属州に逃げ込んだのちローマへ向かった。一方ユグルタはというと。

《そこで数日の後、莫大な金銀を携えた使者たちをローマに派遣し、彼らに次のような指示を与えた。まず旧い友人たちを贈物で堪能させ、ついで新たな友を手に入れ、要するに、金のばら撒きによってできることは何であれためらわずにやるように、と。さて、この使者たちがローマに到達し、王の指示どおり賓客関係にある友人たちやその他、当時元老院の中でその権威が絶大であった人々に巨額の贈物をすると、急激な変化が起こり、最大の反感の的であったユグルタは、たちまちにして門閥貴族層の寵愛と好意を受けるようになってしまった。彼らのうち、ある者は期待によって、他の者は報酬によって動かされ、元老院の各人を個別に回って、この人物に対しあまり厳重な決定がなされぬように盛んに運動した。こうして使者たちが充分に自信を得ると、日が定められ、双方のために元老院接見が設定された。アドヘルバルは次のように語ったと我々は聞いている。》

立派な長い演説だったが最後の部分だけ引用する。

元老院議員諸兄よ、あなた方御自身にかけて、あなた方のお子さんや御両親にかけて、ローマ人民の威信にかけて、どうか惨めな私を助けて下さい。不正に対抗し、あなた方のものであるヌミディア王国が、犯罪と私ども一族の流血によって崩壊するのを座視しないで下さい。》

まあ本来ならば、仔細をよく取り調べた後ユグルタを出頭させ処刑するか、大軍を出してユグルタを潰すかしたかもしれないが、実際はヌミディア王国の二分割で終了したのである。