岩波文庫 ユグルタ戦争 カティリーナの陰謀 (8)

ユグルタ戦争についてはここまでとし、カティリーナの陰謀について少しだけ紹介する。放埓で悪い貴族カタリーナによる政府転覆計画があらかた失敗し、関係者の処分について元老院で話し合われているところである。カエサルのところに順番が回ってきた。長くて立派な演説の一部である。

元老院議員諸兄よ。下層の、世に知られぬ生活を送っている者たちが、怒りにかられて誤りをおかしても、それを知る者はわずかであるーー彼らの評判と境遇は同程度なのである。大いなる支配権を与えられ、高きにあって年月を送る者の場合、彼らのしたことはすべての人の知るところとなる。このように最上の境遇にあっては最小の自由勝手がある。贔屓も憎悪もふさわしくない、怒りなどもってのほかである。他のものにおいては怒りと言われたるものは、支配者の場合は傲慢、残忍と呼ばれるのである。私自身はといえば、議員諸兄、私はこう思うーーいかなる責め苦も彼らの所業に較べれば小さすぎると。しかし大多数の人間はできごとの結末しか記憶せず、涜神の輩についても、もし刑罰がすこしでも厳しすぎれば、彼らの犯罪を忘れて刑罰のことを云々するのである。

(略)

それでは彼らを放免し、カティリーナの軍勢を増大させようという意見なのか?断じて否。私は次のように考える。彼らの財産は没収されるべきである。彼ら自身は最も富強な自治諸都市において拘禁されるべきである。また今後、何びとといえども彼らに関して元老院に諮ってはならない、また民会に提案してはならない。これに反して行動したものは、元老院は彼が国家と万人の安寧に逆らってなしたものとみなす。》

さてこの後登場したマルクス=ポルキウス=カトーはこう演説した。

《(略)それゆえ、私は次のように考える。悪逆なる市民たちの忌まわしい計画によって国家は最大の危険に立ち至っており、また彼らはティトス=ウォルトゥルキウス及びアッロブロゲス人の使者たちの証言によって有罪であると立証され、同胞市民と祖国に対して殺人、放火、その他の恐るべき残忍な悪行を準備していたことが明白になったので、その明白になった者たちについて、死罪にあたる罪[頭格罪]の現場で押さえられた者のごとくに、父祖の慣習に従って死刑が課されるべきである。》

両者は甲乙つけがたい立派な人物である。元老院は後者の意見を選んだ。その日のうちに逮捕者は処刑され、残されたカティリーナの軍勢とローマ軍との最後の決戦が行われたのである。

さてこれでこの本は終了し次に読むのはこれになった。岩波現代文庫である。