失われた時を求めて (9)

日曜の午後の昼食のあとプルーストはアドルフ大叔父の事を回想する。プルーストは月に二回アドルフ大叔父の元を訪ねるという役を担っていた。その頃のプルーストは芝居に夢中でオペラ・コミック座、コメディ・フランセーズの出し物の広告を見るためにモリス広告塔を毎朝見に行くという習慣があった。大叔父が色男で女優達と交友があると知ったプルーストはある日広告塔を見に行くふりをして、突然大叔父のところを訪ねる。そこにはドレスを着た婦人が来客中であり、中へ招かれたプルーストはドキドキしながら婦人に挨拶するのであった。この時婦人が発した言葉がまたふるっている。以下引用文。(吉川一義訳)

《なんていい子だこと!もういっぱしの優男だわ。女性に目がないようなのは、叔父さん譲りね。申し分のないジェントルマンになるわ》

《—Comme il est gentil! il est déjà galant, il a un petit oeil pour les femmes: il tient de son oncle. Ce sera un parfait gentleman, ajouta-t-elle en serrant les dents pour donner à la phrase un accent légèrement britannique.》

プルーストは興奮してこの日のことを両親に詳しく話してしまう。それが元で両親と大叔父は仲違いし、数年後大叔父は亡くなるのである。