失われた時を求めて (75)

晩餐会も佳境に入ってくる。ヴェルデュラン氏が「なにぶん私は貴族の称号をなんら重視しておりませんので」と言って薄ら笑いを浮かべ、シャルリュス男爵にさらにこう言ったのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《「ただ、ほかでもないカンブルメール氏がおられましたので、あのかたは侯爵で、あなたは男爵にすぎないというわけで・・・。」「失礼だが」とシャルリュス氏が高飛車に答えたので、ヴェルデュラン氏はあっけにとられた。「私はブラバン公爵でもあり、モンタルジ家の公達でもあり、オレロン、カランシー、ヴィアレッジョ、レ・デューヌの各大公でもあります。もっとも、こんなことはどうでもいいいいことですから、どうか気になさらんように。」と言い添えた氏は、持ち前の繊細な微笑みをうかべたが、それはとりわけつぎの最後のことばを口にしたとき晴れやかに輝いた。「すぐにわかりましたよ、あなたが不慣れなことは。」》

こういう話と地名の薀蓄が大好きなプルーストである。

ヴェルデュラン夫人は雄弁でエリスチールの才能を誉めそやし、彼がつきあっていた女の事を貶すのである。エリスチールがサロンに出入りしていた頃の静物画や肖像画を持ってきて皆に見せる。招待を受けたカンブルメール夫妻は家主として、庭や室内装飾についてありとあらゆる事に難癖をつけ始める。ただカンブルメール老婦人についてはプルーストは悪く言わないのである。