失われた時を求めて (81)

第9巻の後半はエピソードの羅列に過ぎないが、プルーストの文章のキレが神がかってくる。この辺のやり取りは京都でよくある話とそっくりだと思う。以下引用文。(吉川一義訳)

《カンブルメール家の人たちは、その晩餐会を実際にはシックな世界の精華というべきフェレ夫妻のために催したのである。しかし主催者たちはシャルリュス氏の機嫌を損なうことを怖れていたので、フェレ夫妻と知り合ったらシュヴェルニー氏を通じてであったにもかかわらず、晩餐会の日、シュヴェルニー氏がたまたまフェテルヌを訪ねてきたのを見て、カンブルメール夫人は頭に血がのぼるのを感じた。そこでみなはあれこれ口実を設けてシュヴェルニー氏をボーソレイユにできるだけ早く追い返そうとしたが、とはいえ充分には早くできなかったようで、中庭で氏と出くわしたフェレ夫妻は、氏の感じた屈辱にも劣らぬほど気分を害した。》

この巻の最終章ではアルベルチーヌとの関係が急展開する。前章の末尾で「アルベルチーヌとの結婚は愚の骨頂」とまで言っておきながら、ある日の夜、作り話まで用いて別れようと画策したプルーストは、アルベルチーヌの「ヴァントイユ嬢の親友と旅行する」という言葉に劇的に反応し、苦しみ始めるのである。

大きな疑問符がここで生じるのだが、別れるつもりでいた相手に強力なライバルが現れたというだけで方向が180度転換するものだろうか。渡りに船とあっさり別れるのが普通である。

どうやらアルベルチーヌを婚約者という事にして、プルーストは急遽パリに戻るようだ。