失われた時を求めて (98)

ついに別れる別れないの修羅場が訪れる。以下引用文。(吉川一義訳)

《たとえばその夜、帰宅した私が自室にいるアルベルチーヌを呼びに行き、私の部屋へ連れてきて「ぼくがどこへ行ったか当ててごらん、ヴェルデュランさんのところだよ」と言った時である。》

この発言から始まり、

《「そう、ここでの生活は、きみには退屈でしかたがないんだろう、ぼくたちは別れたほうがいいんだ、で、一番いい別れかたは、できるだけさっと別れることだから、ぼくの感じる大きな悲しみをできるだけ短くするためにも、ねえ、きみ、今晩のうちに別れを告げて、明日の朝、顔を合わせなくてすむように、ぼくが寝ているうちに出て行っておくれ。」》

ここまで到達する。この後長い考察のような、事後分析のような発言が続き、どさくさに紛れながらこれは陽動作戦であるとプルーストは明言する。さらにおしゃべりが続きこのような発言になる。

《どんなはったりを利かせようと、だまそうとする相手がどう出るかについては、やはり一抹の不安が残るものだ。この別離の芝居がほんとうの別離へとゆき着いたらどうしよう!》

で、この夜の結論はこうなった。

《「ねえ、アルベルチーヌ、きみが言うには、ここにいるほうが幸せで、これから不幸になると。」「もちろんよ。」「それを聞くとショックだよ、じゃあ、あと何週間か延長してみようか?ひょっとすると、一週間、また一週間と延ばすうち、もっと先まで行けるかもしれない。ほら、一時的なことでも、ずっとつづく場合があるんだから。」「まあ!なんてやさしいの、あなたって!」》