失われた時を求めて (15)

いよいよ祖父、父、プルーストで「スワン家の方へ」散歩に出かける。たまたまスワンの妻と娘がパリに行っており出くわす心配がないからである。祖父と父は道で出くわして知り合いになる事と、庭を覗いていると思われる事をとても慎重に避けているのである。プルーストは後からついて行って風景や自然を大変文学的に描写している。以下引用文。(吉川一義訳)

《私たちは、庭園に着く前から、そこに咲くリラの香りがよそ者を出迎えて来てくれるのに出会う。リラの本体は、小さなハート形のみずみずしい緑の葉のあいだから、好奇心旺盛に、庭園の柵のうえにモーヴ色や白の羽根飾りをもたげているが、それは日陰にあっても、すでに陽光を浴びていたのでつややかに輝いている。》

《Avant d’y arriver, nous rencontrions, venue au-devant des étrangers, l’odeur de ses lilas. Eux-mêmes, d’entre les petits coeurs verts et frais de leurs feuilles, levaient curieusement au-dessus de la barrière du parc leurs panaches de plumes mauves ou blanches que lustrait, même à l’ombre, le soleil où elles avaient baigné.》

プルーストが庭の中をいい気になって眺めていると、まずい事が起こった。ブロンドの髪の少女が、じっとこちらを見つめていたのである。彼女が娘のジルベルトである。スワンの妻は愛人と屋敷に居り、憐れなスワンは旅に出されていたのである。