小説 天北原野 (2)

三浦綾子の小説の続きである。樺太の首府豊原の描写がある。

《すっかり日が暮れて、暗くなった豊原の街を、孝介とあき子を乗せた自動車が走っていた。外の寒さで、車窓は水蒸気に濡れている。中指でそっと窓を拭い、あき子は珍しげに豊原の街を眺めている。小雪がちらついて、路上が仄かに白い。街は札幌と同様、碁盤の目のような区画だ。道幅も広い。 疾うに葉の散りつくした白樺の並木道を車は右折した。たいやき屋と書店を左右に見て、車は商店街を走って行く。店屋のガラス戸もくもっていて、中の灯がうるんで見える。》

さて披露宴の後、孝介とあき子の新婚生活が始まる。豊原に建つ瀟洒な洋館に平屋の離れがついた新居に、住み込みの夫婦がお手伝いさんとして雇われている。そこにあき子は奥様として迎えられる。家はそれだけではなく大泊、真岡、札幌、東京にもあるという。初夜は別々の布団に寝てそれ以来夫婦生活は無い。ここに孝介の深い呻吟のようなものが見て取れるのである。

一方完治の一家も孝介の破格とも言える結納金で豊原に居を構えている。孝介の口利きで融資も受け父伊之助と完治は材木業を始めている。先ずは山王製紙の検収員を料亭で接待し、かけ麻雀をやり女を抱かすのである。芸者を上げてのどんちゃん騒ぎをたまたま来ていた孝介は冷ややかに横目で見ているのである。

孝介は孝介で豊原に来た貴乃のことが気になって仕方がない様子である。奪われたものは奪いかえしても良いのではと考えている。

いろいろと波乱含みの展開である。