川端康成 禽獣 (1933)

川端34歳の時の作品である。音楽業界の大物らしき独身の男が女中と禽獣を飼って暮らしている。男は40の手前という設定である。出入りする鳥屋の勧めで菊戴の番いを飼い始め禽獣の飼育にのめり込んで行く。その過程で業のようなものが立ち現れて来る。千花子というダンサーと浅からぬ因縁があり花籠持参で発表会の楽屋を訪れたりする。あの時結婚しておけば良かったなどと思ったりするが、本当は独身が性に合っているのだろう。薄情そうな女中がいいと周りには公言している。霊感が強いために霊柩車と遭遇する場面をわざわざ登場させているが縁起がどうのこうのと気にしている割には無関心を装っている。『知的なものに接近した作品』という割には業やら霊感やら地べたを這うような人生しか見えてこない。川端康成自身は随分深い絶望と折り合いつつ生きているように見える。