東洋文庫 ナスレッディン・ホジャ物語 トルコの知恵ばなし 護雅夫 訳(1965)

  15世紀頃に成立したとされるトルコの小噺集である。イスラム圏に広まった後、フランスをはじめヨーロッパ各国でも出版され人気を博したが日本では護雅夫氏の翻訳が単行本としては初めてである。

  ナスレッディン・ホジャという老師のような人物が主人公で、その活躍は天然でシュールな味を醸し出している。以下本書よりごく一部を引用して紹介する。

 ☆ ホジャが或る晩、夢の中で九文もらうたげな。ホジャは手を差し出して、少のうてもせめて十文にしてくだされい。とたのんだげな。たのむ拍子に目が覚めたげな。手の平にゃ何もない。
   慌ててもう一遍目を瞑り、

いや、諦めましたわい。下されい。九文でも結構ですわい。と言うたげな。

☆ 或る日連中が集まって、人間、若いときにゃ元気があって力も強いが、年とると、元気も力も無うなってしまう、と、喋り合うてたげな。ホジャはこれに文句付け、儂ゃ年とった今でも、若いときくらいの力があるわい。と言うたげな。どのくらいじゃ、と訊いたげな。

  儂が家にゃ、滅法でっかい石臼があっての。儂ゃ若いころ、根かぎりの力を出して持ちゃげようとしたが、ピリッとも動かせなんだ。今でも精一杯やってみる。相変わらずちょいとも動かせん。どうじゃい、儂ゃ年とった今でも、若いときぐらいの力があるんじゃ。
と答えたげな。

  西洋のジョークよりは日本の落語に近いが、こちらでは儒教の発想が皆無なのでいくらか自由な印象を受ける。