失われた時を求めて (106)

プルーストはアルベルチーヌの死についてあらゆる角度から検討し、仮定を元に推論し、各時代の文学的表現を用いて繰り返し述べるのだ。死を悼むこういう章句を見つけた。以下引用文。(吉川一義訳)

《アルベルチーヌは二度と戻ってこない、死んだのだ。わが想像力はアルベルチーヌを空のなかに探し求め、ふたりがまだいっしょに空を眺めた夜を想い、私はアルベルチーヌが好んだ月の光の向こうの高みにいるアルベルチーヌまで自分の愛情を届け、もはや生きていないアルベルチーヌにとってその愛情が慰めになることを願ったわけで、きわめて遠い存在になった人にたいするこのような愛は、宗教にも等しく、わが想いはまるで祈りのようにアルベルチーヌのほうへ立ちのぼった。》

さてバルベックにエメを派遣してシャワー室での出来事を調査したがその結果が出た。エメの手紙によると"A"嬢はグレーの服の夫人とやってきて長い時間シャワー室で過ごしたという。その後は若い娘とも同様のことを行い、高額のチップをシャワー係の女に渡していた。プルーストは黒と確信したが、すぐにこんな事を考える。以下引用文。(吉川一義訳)

《シャワー係の女がエメに語ったことに、どんな重要性があるというのか?要するに女はなにも見ていなかったのだから、なおさらのことだ。何人もの女友だちとシャワーを浴びにきたからといって、けしからぬ事を考えていたとはかぎらない。シャワー係の女は、自慢しようとチップの額を誇張して言ったのかもしれない。》

だがさらなる調査としてエメをニースに派遣して調べたところ決定的な証言を得たのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《ところがそんなアルベルチーヌに代わってーー私の予想とは異なり、死によって終止符をうた打たれることのなかった好奇心をとことん充そうとした罰としてーー私が見出したのはまるでべつの娘だった。以前のアルベルチーヌはそんな快楽を味わったことなど一度もないと誓って私をやさしく安心させてくれたのに、このアルベルチーヌはうそ偽りと裏切りをくり返し、とり戻した自分の自由に酔いしれ、朝日が昇るころにロワール川のほとりであの洗濯屋の小娘と落ち合い、恍惚となって噛みつくほどに快楽を味わい、その小娘に「あなた、すごくいいわ」なんて言ったのだ。》

なんというかこの辺にくると、エメが有能すぎて嘘臭さが出ているのではないか。