東洋文庫 中国思想のフランス西漸 (1933)

本書は仏文学研究者である後藤末雄博士がフランスにおける中国研究の歴史についてフランスの文献に当たって取りまとめたものである。そうすると必然的にフランス文テキストに於いて言及された中国の文献にも当たる必要がある。幸い東洋文庫にその多くが所蔵されており氏は東洋文庫とパリ国立図書館に数年間通い詰めこの力作を完成させたのである。

読んで見るとよく行き届いた概論のようであるが、元になった書物の梗概の羅列のような部分がある。一例を挙げる。

ロマン「支那紀聞」1584年、澳門

コルヂェの「支那書誌」によれば、この書の著者ロマンはフィリッピン群島に滞在していたフランスの仕入商人であったが、彼はマテオ・リッチ師から一五八四年九月十三日付の信書に接した。ロマンはこの信書の手写を、テルノー・コンパンに与え、コンパンは自己の編纂した「旅行古文書」の中に収めてこれを発表したのである。私は親しくこの著書を一読する便宜を持たなかった。それゆえ、その内容を紹介することができない。(略)

フェーヌ「パリーより支那までの陸地旅行」1630年パリー刊

フェーヌは王家伺候であり、近衛少将であった。彼はパリーから近東や極東諸国を跋渉して、交趾支那から広東に到着したのであった。この広東こそ、当時外国人にたいして開かれていた唯一の商港であった。著者はまず中国人の風貌を紹介し、次いで中国男性の嫉妬心がいかに強烈なるかを例証せんとして、中国の男性は女性に纏足を施して歩行の自由を奪うと主張している。そして広東に百貨輻輳してこの商港が殷賑をきわめる盛状を叙し、要するに警察制度が完備している結果、万民その堵に安んじ、したがってこの港が商業の隆盛を来すにいたったと結論している。次いで著者は中国の哲人政治を推賞している。(略)

後は各テーマの小論文が並んでいる感じである。