岩波文庫 君主論 マキアヴェッリ著(1532)

この書は序文にあるように、君主(メディチ家)に対する阿諛甘言を排したストレートな論文集であり、フィルドゥスィーの『王書』のようなものとは異なっている。非常に明快な文章なので少し紹介する。

《それゆえ言っておくがこの場合の政体、すなわち獲得のさいに、獲得した者の古い政体に付け加えられた部分は、同じ地域と同じ言語に属するものか、そうでないかのいずれかである。同じものに属するときには、それを保持するのは極めて容易である。とりわけ、住民が自由な暮らしに慣れていないときには。そしてその地の領有を確実にするためにはそれまでそこを支配してきた君主の血筋を抹消してしまうだけでよい。なぜならば、その他の面において彼らの旧来の状態を維持し、風習に差異がなければ、人びとは平穏に暮らしてゆくから。周知のように、長年にわたってフランスに併合されてきたブルゴーニュブルターニュ、ガスゴーニュ、そしてノルマンジーの例を見れば、それはわかる。(略)

だが、言語、風習、制度に差異のある地域で政体を獲得したときには、さまざまな困難が生じてくる。この場合はそれらを維持するために大きな幸運と大きな器量とが必要となる。そして最上かつ最強の手当の一つは、支配地を獲得した人物がみずからそこへ赴いて住みつくことだ。そうすれば領有はより確実で永続的なものになるであろう、まさにトルコがギリシャに対してしたごとくに。(略)

最上の手当のもう一つは、新しい支配地のいわば足枷となるように、一、二箇所に植民兵を送り込むことである。なぜならば必要なのはこの方策を採るか、さもなければ大量の騎兵や歩兵を駐留させなければならないから。植民兵の方策には大きな費用がかからない。》

世界史を学ぶ場合、このような原則が実行されているかどうか見て行くと興味深い。また現代における戦争および既存の植民地の動向にも適用できると思う。