東洋文庫 中国社会風俗史 尚秉和著 秋田成明編訳 (1938)

中華民国時代に著された風俗、制度の全史である。著者の尚秉和は進士に合格後、官職を経て研究者となった人である。記述は冠髪、衣服、履物、飲食、住居から始まり、冠婚葬祭、制度に及んでいる。一部抜粋する。

昔の紙はいわゆる「竹帛」であって、みな竹や帛の上に字を書いたわけである。この竹の小さいものを簡と呼ぶ。『詩経』に「この簡書を畏る」とある簡書は、簡に書かれた王命のことである。

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簡より小さいものを札という。

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紙は後漢になって作られたが、まだ竹簡も使われてたから、漆もなお使用されており、晉になって紙が一般化すると、始めて煙墨が行われたのである。『墨経』によると、晉になって始めて黍を焼いた煙に、松の煤をまぜて作り、唐初には高麗から松烟墨が献上され、宋の張遇は、宮中の御用墨に始めて油烟を使い、麝香をいれて竜剤と呼んだ、とある。それ以後今日まで伝わっているわけである。

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戸籍

昔は、人口税を徴収するために、戸籍簿を最も重視している。漢魏以後には人口税はないが、徴兵のためにも重要となっている。中国の戸口数は不確かだといわれるが、それは清以降の現象にすぎない。唐以前は、人口が正確なばかりでなく、男女の微傷も必ず戸籍に書き込んでいて、その死亡率の正確なことはむろんである。後世のひとが空文のように考える、そんなものではない。周では戸籍を扱う専任の官がおかれて万民の数を記録しているが、生歯(男八月女七月)以上は男女を区別して、戸籍に記入し、死亡者は削り去っている。夫役を割り当てるためには、四時に男女の数が登記されて、夫役の免除者も、また記入されるから、民間の出生者は、男女ともに必ず官に報告し、死亡者もまた報告している。