東洋文庫 人倫訓蒙図彙 (1690)

中村惕斎によって訓蒙図彙全20巻が1666年に出版され、こちらはその後に出された類書である。本書は全七巻よりなる絵図付きのいわゆる百科全書である。巻一より冒頭の一部を紹介する。

巻一

上貴き公卿より、庶人の賤しきに至るまでの、其所作を、くわしく家々に尋ねて来由をたゞし、或は唐大和書にあるを考へあつめて、人倫訓蒙図彙 と名付ける物ならし。

【大臣】摂政、関白、一人。大臣の上に座するによって、一ノ人といふ。

五摂家】近衛、九条、一条、鷹司、已上五家を五摂家といふ也。其ゆへは 摂政関白を極官として太政大臣をば望み給はず、太政大臣は清花の極官也。摂政は政を摂ると読みて、天子にかはりて万機の政をつかさどるゆへ也。然ば天子御幼稚の御時か、又は女帝の御時に、摂政は有也。天子御成人にて位につき給ふ時は関白斗也。(略)

【清花】転法輪三条、西園寺、徳大寺、花山院、大炊御門、久我、今出川、右七家を清花といふ。又は、花族の君達ともいふ。此家、太政大臣を極として、侍従より段々に上りて大臣にいたるなり。右の外に、大臣家といふ家有。三条、西三条、中院、是也。惣じて大臣にいたる家十五家有也。委は職原諸抄に見へたり。

巻二以降からも少し紹介する。

巻三 【杣人】山彦のこゑならで、おとずる物なし。岩もる水に渇をしのぐよすがならで、人家もなき所を住家となし、見上ぐるもはかりなく、見おろすも底ふかき数百丈峯をわけ、猿候ならずして梢をつたふ業、危をわすれ身をかへりみざるも、世わたるほどくるしきはなかるべし。

巻五 【経師】経師、或説に多田の満仲の子美女御前にはじまるとかや。諸の経巻、巻物、色紙、短冊、薄様、香包、其外色絵の紙、贈経等、紙をもって造る類、一切これを造る。其中の長を大経師と号。(略)

興味深いものを紹介した。経師などは近松門左衛門の「大経師昔暦」でご存知の方もいるだろう。